偶然見つけた気学風水のサイト。暦や占いに用いられる九星のひとつである、一白水星は今月末までに吉方位に旅をすることで運気が5倍は上がるという。占いやおみくじなどはあまり信じないけれど運勢は気になります。ただし、いいことを予測している年だけ。運勢の悪い年は自然と忘れてしまいます。今年はちょっといい感じなのです。
絶対に吉方位に旅をするべし
そんなゴールデンウィークのことです。絶対5月は吉方位に旅をすべき!何がなんでも、仕事を休んででも行くべきだ。とサイト主宰者は書いています。後から倍になって返ってくるので行きなさい。ともはや命令口調。その文章に何だか波長が合ってしまい、からだがもぞもぞとし気分が乗ってしまったのです。読み終えて直ぐに、旅のプランを練りはじめました。
一白水星は南か北の方向に。できるだけ遠く。100km以上離れた場所に2泊3日以上。できれば3泊する方が吉。大阪から南といえば海外ならシドニー。シドニー4日間はハードスケジュールにも関わらず満席でした。国内は和歌山県白浜温泉辺り。白浜温泉といえばバブル期にとても人気が高かった温泉名所です。当時家族で何度も訪れていました。あれは長男がまだ生後10ケ月でハイハイしかできなかった頃でした。部屋にある金庫の鍵を開けようと四角柱のキーホルダーを熱心に引っ張る仕草は30年経った今でも鮮明に覚えています。ちょっと目を離すと、旅館の置物などに興味を示し、四つん這いでスタスタと近づくので、落ち着かない旅でした。当時と同じホテルを予約したので、懐かし思い出がよみがえってきました。
方位の恩恵を受けるには中心で
気分が乗っていくことにした白浜。大阪からは南の方向ですが自宅からは若干西によっているように見えます。南西向き「大凶」にも思えました。ちょっとくらい大丈夫であろう。と1週間ほどは気にしていなかったのですが、やはり気が進まず、安全を取ってキャンセル。代わりに北を旅することにしました。北といえば京都から日本海に向け進むと中心に福井県の若狭地方。中年のおばさんがひとり旅をするには「何もない」ところのように思えます。「何もないところ」で「何もしないこと」を「するため」の旅。と目的を決めました。ただひたすら海を眺めよう。広くて、窓からの眺めがいい部屋を予約しました。
運気下降気味でスタート
さて当日、絶好調な運気のはずがハードスケジュールがたたり、ちょっと体は重かったのです。前日からきつい雨はその朝になっても止みません。「どこが運気アップなのだろう」膝にのせていた愛犬の背中を撫でていると、突然グラグラと強めに揺れる地震までが起きる始末。「本当に運気アップ?」と疑いたくなります。重いからだを「よいこらしょ」と動かし旅の支度をしているうちに、やっと雨があがり傘を持たずに家をでました。
「ラッキー!ついてる!」
一白水星アラカン女のひとり旅は電車で。ローカル電車の車窓から、ずーと続く田園風景をぼんやりと眺めているうちに、目的地若狭本郷駅に到着。その頃には見渡す限り澄み渡る青空が広がっていました。「ラッキー!ついてる!」と嬉しくなりました。
送迎の車でホテルに着くと直ぐに隣の道の駅へと向かいました。目的は看板メニューの「海鮮丼」。しかし食券売り場には「売切れ」の三文字が。厨房の前で「あのぉ、海鮮丼は終わったの?」とにっこりと微笑んで尋ねてみました。若い頃はこれでなんとか叶うものです。アラカンの今も通じるのかしら?
「はいっ。数が限られてますから。」と調理場の若い男性。
「あらぁ、残念。せっかく食べにきたのに」
「明日は食べられる?」
「まぁ。12時くらいまでに来てもらえれば」
時刻は15時前。3時間も過ぎてしまうと売切れでも仕方がない。朝からこれを楽しみに何も食べずに我慢してきたのです。せめて得意料理でもいただこうと
「お兄さんのオススメは?」とにっこりと笑顔で尋ねてみました
「……良かったら、海鮮丼お作りしましょうか?」
「えっいいの?ありがとうございます。嬉しいです」と満面の笑顔で答えました。
「ラッキー!ついてる!」
こうして念願の「海鮮丼」を静かな海の景色と磯野香りに包まれてテラス席で頂くことができたのです。
子供の頃の思い出
小学生の頃。地方に親の実家がある同級生は新学期には真っ黒に日焼けして登校してきます。学校のプールのそれとは黒さが違うのです。その姿に憧れて親にせがんで若狭に海水浴に連れてきてもらいました。確か1泊旅行だったと思います。海で泳いだり、船を出してもらい釣りをしたり。民宿で出される新鮮なお刺身。はじめてサザエのつぼ焼きを食べたのはその時です。子供にはあの肝の苦さは強烈でした。そんな思い出が静かに蘇ってきました。
「幸せだったんだな」と小さな自分に会うことができました。若狭は何もなくてつまらないかも。と思っていましたが着いた早々に良いことづくめ。
吉方位旅行はやはり「ラッキー!ついてる!」のでした。