中村亨のビジネスEYE

増加する黒字リストラとその背景

BUSINESS EYE

大手企業による中高年の早期・希望退職者の募集が相次いでいます。
東京商工リサーチによると、2019年に希望退職を実施した上場企業は計35社・1万1,351人で、企業数も人数も前年(12社・4,126人)の3倍となりました。
 
特徴的なのは、35社のうち20社が直近の最終損益が黒字であったことです。
 
希望退職は、業績不振の企業が人件費を削減するために実施するケースがほとんどでしたが、昨今は事情が異なるようです。
今回の【ビジネスEYE】では、「黒字リストラ」を実施する経営者たちのインサイトを探ってみます。

(参考:日本経済新聞/2020年2月21日、2020年1月13日)

1.利益が出ているうちに中高年層を減らす「黒字リストラ」

2期連続で過去最高の純利益を更新した中外製薬など、製薬業界で「黒字リストラ」に踏み切る例が目立ちました。

<黒字リストラを実施した主な企業(最終利益前年比)>
アステラス製薬 …2,222億円(35%増)
中外製薬 …924億円(27%増)
カシオ計算機 …221億円(13%増)
キョウデン …30億円(32%増)

早期・希望退職は、退職金の割り増しなどの優遇措置を伴うことが多く、「利益が出ているうちに中高年層を減らしたい企業が増えた」(東京商工リサーチ)というのが主な理由のようです。

早期・希望退職を募った製薬業界では、4社中3社が直近の決算で増収増益でしたが、その背景には薬価の改定や国外メーカーのライセンス販売の終了などが控えており、今後の業績停滞や悪化を見越し、利益確保の先手を打つ形で黒字リストラに踏み切ったのでしょう。

このようなビジネスの変化に備える理由の他に、賃金体系の是正や高年齢者雇用安定法の改正に備える人事労務戦略としての理由も見えてきます。

2.働き手不足の解消や人件費負担増の将来に備える戦略

大手企業の多くは、年齢が上がるほど給与負担が重くなる年功序列型の賃金体系を持つ傾向がありますが、働く人手不足を補うために、中高年に手厚い賃金の原資を若い世代中心に再分配する、という戦略を取る企業もあります。

例えば、NECでは中高年の早期・希望退職を募る半面で、「新卒で年収1,000万円以上」という新しい賃金制度を導入し始めました。限定された条件のある一部の採用であるとしても、黒字リストラを実施した複数の企業で、若い世代を考慮した新しい賃金体制の実施や検討を行っています。

 
また、政府が法改正を検討している「高年齢者雇用安定法」との関係も見逃せません。

厚生労働省は、現在は希望者全員の65歳までとなっている継続雇用の義務付けを70歳まで引き上げる方向で、早ければ2020年に高年齢者雇用安定法の改正案を提出する考えです。

高年齢層の将来の人件費負担に備えるために、利益が出ているうちに痛みを伴う改革を実施する、あるいは早期・希望退職の募集を契機に賃金体系の大幅な見直しを行う、という経営戦略ではないでしょうか。

3.維持・成長・拡大期にある今だからこそできる経営判断

さて、「維持・成長・拡大期にある今だからこそできる経営判断」として黒字リストラを挙げましたが成功確率向上セミナーで私が講演している「成長戦略型M&A」もその一つと言えます。

これまでは、社長が70代になり企業の世代交代を考える際にその方法の一つとして、M&Aを行う「事業承継型M&A」が主流でした。ところが現在では、創業期を経て成長期になった企業が更なる成長戦略を実現するためにM&Aを実行する「成長戦略型M&A」が増えています。

セミナーでの講演内容のサマリーは当社の広報誌最新号でご覧いただけます。
以下のURLよりPDFで公開していますので、よろしければぜひご覧ください。
https://j-creas.com/angle/4637/

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。