中村亨のビジネスEYE

遺言書作成における遺留分対策

BUSINESS EYE

昨年1月の民法改正により自筆証書遺言の作成方法の緩和や、法務局による保管制度の創設など、遺言書作成に関する法律が整備されることで、遺言書がここ数年で身近になったように感じます。

改正内容には遺留分請求に関すること、遺言執行人の権限の明確化なども盛り込まれており、単に作成方法が緩和されただけでなく、遺留分請求や執行人に関しても重要な改正がされています。

このような改正が行われた背景には、
・遺言書をより使いやすく簡易に作成するとともに
・安全に管理・保管する仕組みを構築することで
年々増加している相続人間のトラブル件数を減少させようとする狙いがあるのではないでしょうか。

今回のビジネスEYEでは、改正内容のうち遺留分請求に関する部分と今後の対策についてお話したいと思います。

遺留分の改正内容

遺言書などで相続の内容が、その相続人にとってあまりにも不利益だという場合に、
最低限相続できる財産が法律で定められていて、これを【遺留分】といいます。

民法改正を踏まえ、遺留分対策はどのようにすべきか、3つの手段をお伝えします。

<改正前の取り扱い>

遺留分を請求したい相続人がいた場合には、
【 遺留分の請求 = 遺留分相当額に達するまでの「相続財産の返還請求権」 】
として考えられていました。

よって、遺留分の対象となった相続財産そのものに対する請求権として作用して、
不動産や株式が相続人の共有財産として扱われるため、仮に不動産を第三者に譲渡して
現金化しようとしても、それに反対する相続人がいると手続が滞ります。

また、法人の後継者となる相続人に自社株式を相続させようとしても、それに反対する
相続人がいれば事業承継に支障が出る問題がありました。

<改正後の取り扱い>

こうした背景から改正後の遺留分請求は、
【 遺留分の請求 = 遺留分侵害額に相当する「金銭の支払を請求する権利」 】
として位置付けられ、遺留分を金銭債権化することで相続財産が共有されるのを
防止できることとなりました。

名称も遺留分減殺請求権から「遺留分侵害額請求権」と変更となっています。

<改正後に期待されること>

遺留分を侵害された相続人にとっても、共有の不動産や自社株式などより現金を
希望する場合には、請求限度額まで現金で請求できるため、有利になる側面があります。

改正後は相続財産の共有化を防ぐことが可能で、各財産の有効利用が可能となり、かつ相続人間のトラブルも起こりにくくなることが期待されます。

今後の遺留分対策

では改正の内容を踏まえて、遺留分対策はどの様にするべきでしょうか。
遺留分が金銭債権弁済に改正されたので、対策としてはどの様に金銭を用意するか、
もしくはどの様にして請求額を下げるかがポイントとなります。

そのお勧めの手段を3つお伝え致します。

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①養子縁組で相続人を増やし遺留分を下げる

養子縁組を行うことで、請求される遺留分の金額を下げる事と、相続税そのものを下げる事が可能です。

まずは請求金額そのものを下げる方法です。
民法で決められている遺留分は法定相続分の半分です。

例えば長男A、次男Bの相続人がいたとします。
親が遺した遺言書で「長男Aに現金、不動産、その他すべての財産を相続させる」といった内容が書かれていた場合、

次男Bの相続分は1/2なので遺留分は1/4となります。
ここで長男Aの子Cと養子縁組を行った場合、全員の法定相続分は1/3となり、
遺留分は1/6に減らすことが可能となります。

また、相続人が増える事で基礎控除が増加するため、養子縁組の効果は相続税にも影響を与えます。

ただし、養子縁組を行うと養子にも相続権が発生し、本来受取れる相続分が減少することで揉める原因となる可能性があります。また、孫養子の場合は相続税の負担が2割増しとなる規定があるなどリスクも生じます。
実行する際はリスクを踏まえ適任者を選ぶことが重要です。

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②生命保険を活用し現金を用意する

次に遺留分請求された場合の余剰現金を用意する方法です。

一度に多額の現金を用意する方法として生命保険の活用をお勧め致します。
それは、生命保険の活用が遺留分と相続税両方の対策につながるからです。

生命保険は即効性が高く、契約締結後には決められた保険金額が保障として残ります。
そして生命保険には受取額が「法定相続人×500万円」を超えなければ相続税が掛からない非課税枠もあるので、現金を生命保険に変えるだけで相続税対策になります。

また、受け取った保険金は受取人の固有財産として取り扱われます。
相続ではこれを「みなし相続財産」として相続税の対象となりますが、遺留分の対象から外すことが可能となり、その受け取った保険金額を遺留分の原資に充てる事が出来ます。

特に不動産が財産の大半を占めているオーナー様には効果が高い方法です。

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③生前の遺留分放棄を活用する

生前に相続を放棄する事はできませんが、遺留分を放棄することは可能です。

生前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要となります。
ただし、遺言者が遺留分放棄を強要する事は出来ません。

相続人本人の意思のもと放棄の理由を含め、家庭裁判所に申立する必要があります。
遺留分放棄は本来財産をもらえるはずであった相続人へのお願いになりますので、代償となる財産の用意も必要になります。

遺言の内容は遺言者の一存で作成は可能ですが、受け取った相続人が支払う相続税や遺留分を含めた対策も必要となります。

遺言書の作成件数は年々増加しておりますが、作成に至った経緯を付言事項として遺言書に残すなど、遺された相続人が後々揉めないように、分割内容だけではなく『想い』を残すことも大切ではないでしょうか。

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。