中村亨のビジネスEYE

評価が分かれるテレワークの生産性

BUSINESS EYE

中村亨の「ビジネスEYE」です。

テレワークが新しい働き方として定着する中、仕事の生産性を巡る評価が分かれてきています。日本経済新聞社が実施した調査によると、テレワークにおける生産性の変化について「向上した(31.2%)」「低下した(26.7%)」と評価が二分しました。

コミュニケーション不足の懸念から伊藤忠商事は社員の出社を促す一方、日立製作所は多様な働き方の選択肢としてテレワーク積極推進を継続するなど、企業の取組姿勢に温度差がでてきているようです。

今回のビジネスEYEでは、テレワークをDXや労務管理の側面から見てみましょう。(参考:日本経済新聞/2020年8月7日・10月7日)

■生産性のボトルネックはコミュニケーション

先の調査で生産性が下がった理由として最も多く挙げられたのが「同僚や部下、上司とのコミュニケ―ションが取りにくい」という点でした。

伊藤忠商事の岡藤正広会長CEOは「商売は人と会うのが基本」とし、緊張感や同僚・取引先とのコミュニケーションが欠けることによる生産性の低下を懸念しており、社員の安全に配慮しながら出社の比率を上げています。

日立製作所も同じく、コミュニケーション減少を心配する声は多いものの、管理・評価手法に工夫を凝らすことで、テレワークを積極推進しています。

■DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展

そして、テレワークが広がる中で改めて注目されているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という考え方です。DXは「デジタルによる変革」を意味しますが、ビジネスにおいては「デジタル技術を活用し、新しいビジネスモデルやサービスを構築すること、ひいては働き方改革や社会の変革を実現すること」を言います。

コロナ前、日本企業のDXは海外に比べて遅れているとする論調が強かったのですが、コロナ禍によってテレワークが急拡大した現在、DXは避けては通れない課題となりました。

テレワークを効果的に活用し、生産性向上や働き方改革につなげていくには、単なるツールの導入や手続きの電子化には留まらないDXを進めていかねばなりません。

■労務管理はどう変わる

コロナ後の社会ではテレワークは「働き方の選択肢」となり、各企業がそれぞれの事情に応じて最適な割合でテレワークを導入していくケースが増えていくでしょう。

それに伴い「決まった場所で決まった時間働く」ことを前提としている日本の労務管理制度も変わっていく必要があります。

実際に、テレワークの社員の勤怠管理や労災認定、お互いの顔が見えない中での円滑なコミュニケーション等に課題がある、既存の就業規則の内容ではテレワークの実現が難しい、というご相談をしょう。いくつもいただいています。

テレワークは適切に活用できれば、従業員の多様な働き方を実現し、同時に企業としての成果の創出も達成できる制度です。テレワーク等の「働き方の選択肢」と状況に応じた適切な労務管理制度の整備を両輪で進めることが、コロナ禍を乗り越え、コロナ後の社会でも生き残る活力ある企業への第一歩となるのではないでしょうか。

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。