中村亨のビジネスEYE

時間外労働に対する法定割増賃金率の引き上げ

BUSINESS EYE

中村亨の「ビジネスEYE」です。

これまで中小企業に猶予されていた月60時間を超える時間外労働に対する50%以上の割増賃金率が、いよいよ2023年4月より大企業と同様に適用されることとなります。

今回のビジネスEYEでは、その内容を見ていきましょう。

月60時間を超える時間外労働の考え方

1か月の起算日からの時間外労働時間数を累計し、60時間を超えた時点から50%以上の率で計算した割増賃金を支払うことになります。

この割増賃金率および1か月の起算日については、労働基準法に定める「賃金の決定、計算及び支払の方法」に関するもので、就業規則に規定する必要があります。

月60時間を超える時間外労働について、深夜時間帯に労働した場合や休日に労働した場合との関係は、次のとおりとなります。

  • 深夜割増賃金との関係
    深夜(22:00~5:00)の時間帯に月60時間を超える時間外労働を行わせた場合は、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%となります。
  • 休日における労働時間との関係
    1か月60時間の時間外労働の算定には、法定休日に労働した時間は含みませんが、法定休日以外の所定休日に行った時間外労働の時間は含みます。

月60時間を超える労働時間の割増賃金に代えて、有給休暇を与える「代替休暇」の検討

「代替休暇」とは、1か月に60時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、月60時間を超える労働時間の割増賃金に代えて、有給休暇を与える制度です。
制度を導入するにあったては、労使協定を締結することが必要となります。
しかし、労使協定を結んだからといって従業員に代替休暇の利用を義務付けることはできず、代替休暇を取得するか否かの決定は個々の従業員の意思に委ねることになりますので留意が必要となります。

賃金請求権の消滅時効

ところで、2020年4月には民法改正にあわせ労働基準法も改正され、これまで2年であった賃金債権の消滅時効が5年(当分の間は3年)に延長されました。従って、今後は最大3年~5年の賃金請求がなされる可能性があります。
それらに加え、時間外労働に対する法定割増賃金率の引き上げも行われますので、未払賃金請求におけるコストインパクトがかなり大きくなることを認識しておく必要があります。

法定割増賃金率の引き上げへの対応

従って、特に長時間労働が常態化している企業や労働時間の管理体制が整っていない企業は、次のような対応を早急に進める必要があります。

  • 適正な労働時間の把握
  • 時間外労働削減のための体制整備
  • 勤怠システムの導入

 
今回の法定割増賃金率の引き上げは、人手不足の問題を抱える中小企業にとっては、人件費増の懸念からデメリットばかりであると感じている方も多いのではないでしょうか。

しかし、長期的な観点からは、これを機にこれまでの業務を見直し、生産性向上や残業削減による魅力ある職場に近づけることで優秀な人材を確保することができ、業績向上ひいては企業の成長につながることが期待されます。

厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
https://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf

 
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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。