アラフォーOLが
不動産投資デビュー
してみた。

【Story9】決済契約で人生初のオーナーとなる

契約場所の変更

先輩の助言に奮起した私は早速、自分のメインバンクの青い銀行の個人営業部の担当者に連絡をとった。
投資の知識はないくせに貯金嫌いの私は、ほぼ全財産を銀行の担当者に任せて投資信託や債券などの資産運用にまわしていた。担当者が勧める商品に「へーへーほーほー。じゃ、それで!」とまあまあの金額をポンっと注ぎ込む、ある意味「営業され上手」なワタクシ。銀行からすると金箔のネギを背負ったカモ状態であろう。
今回は青い銀行の融資は受けないが、「私は金箔カモ様なので、会議室くらい貸してくれるはず」という目論見があった。
果たして担当者は「マツコ様の不動産デビューですから。うちの支店(浜松町)の応接を予約します!」と快いお返事をくれた。 また、先輩の紹介の司法書士からも売主側の先生より3万円も安い見積もりももらった。

意気込んで私は仲介の会社に「あの〜、お台場は仕事の関係でちょっとだけ遠くて〜。それでですね、私のツテで場所を確保できそうでして〜、いえいえ、よろしければなんですが」と、気合とは裏腹に不動産投資ピヨピヨっぷりを発揮するくちばし口調で諸々変更する打診をした。
結果的に、場所も司法書士も私の言い分が通り、「買主有利説」という先輩の弁が立証された。

決済契約当日

そして9月半ば。
青い銀行の浜松町支店の「メガバンクの応接でござい〜」的な会議室で、決済契約が始まった。
時間は10時。決済というのはその場で司法書士に登記変更の委任状を書き、その日の法務局が開いている時間帯に手続きをする関係で、午前中に行われるのが通例らしい。

さすがの私も緊張をしていた。
初対面の司法書士の先生も加わり、おじさん5−6人に囲まれ、促されるままに書類にサイン。もう何の書類か分からないままにわさわさと書類を受け取り、不慣れな捺印を何箇所も行った。
私の印鑑は学生時代から使っているショボい一品だ。チョイ悪(売主)の茶色くてゴツい印鑑と比べて恥ずかしくなったりしながら、何箇所も捺印をしていると安物の印鑑はたいそう指が疲れることを初めて知った。
指が痛むたびに「もう後戻りはできない」と、やおら静謐な思いを抱いた。
時おり、馴染みの青い銀行の担当者が「マツコさん、コピー取るものありますか?」などと会議室に様子を見に来てくれ、少しだけ緊張がほぐれた。

さて、今回は現金の取引だ。なので「振込伝票を記入し、窓口に送金申請→売主が自分のメインバンクの銀行に行き通帳記帳をして着金確認」というレトロなやり方だった。 窓口で振込の順番待ちをしている時に、仲介に前回の疑問を聞いてみた。
「今回は会議室が用意できたからいいが、普通は現金の場合は喫茶店とかで数千万の取引をするのか?」と。すると、仲介は「まあそんな感じですね。もっと雑な場合だと、銀行のATM脇の空きスペースで立ったまんまで取引することもありますよ」とのことだった。

先程大量に記入した紙や渡された書類の束を思うと、「この作業をスタンディングで行うのか!なんとハードな世界だ」と思うのと同時に、不動産投資というオールドスタイルな特性に思いを馳せた。 スクールの授業でも「不動産は日本で一番歴史が古い投資。いまだにネット環境のない街の不動産屋は沢山いる」と言っていた。
ステークホルダーが多く絡み合っているため、一気に近代化するのは難しい事情もあるのかもしれない。が、世の中がこれほど変化している時代なのだ。きっとこの先数年で不動産投資の世界にも色々なパラダイムシフトが起こり、不要なプロセスや不要な業者はどんどん淘汰されていくのかもしれないな、とピヨピヨと思った。

決済契約終了後

そうこうしているうちに1時間半ほどで契約は無事に終了した。
チョイ悪は几帳面な性格らしく、鍵や賃貸契約書などの必要なグッズに加えて、自分が物件所持していた期間の組合議事録のファイリングなども保管しており、それらをどっさりと引き継いだ。
その重い紙袋を持ちながら、私は浜松町の貿易センタービルで「お、終わった」と、ようやく凄まじい緊張から開放された。

と同時に、時間もお昼で空腹を感じたため、とりあえず目についたタイ料理屋に駆け込んだ。
ランチタイムの定食メニューを手にした私はふと魅惑のワードをメニューの隅に見つけた。
その重要ワードは「ランチビールあります」だ。今日目にしたどんな言葉よりも、私の心にズシリと響いた。
私は迷いなくシャープな声で店員にランチビールをオーダーした。ついでに、「ランチの定食じゃムードないし(←何の!?)」と思い、アラカルトでエビ生春巻きやヤムウンセンという酒のあてになりそうなツマミを注文した。明らかに定食よりは高くつくが構わない。なんせ1000万超えの買い物をしたのだ。そんなあとの食事なのでゆったり優雅に嗜みたい、という成金魂が頭をもたげていた。

ビールが運ばれてきた。輝く黄金の液体を喉にゆっくり流し込む。隣の席ではOL2名がオフィスの戻り時間を気にしながらガパオライスをかき込んでいる。
この時私の脳内に「ワンアップ」という言葉とともに、昔ドラクエで聞いた「テレレレッレッテッテ〜♪」という効果音が流れた。

初めて物件視察をしてから1ヶ月ちょい。
おっかなびっくりで汗かきべそかきではあったが、何とか私は一連のプロセスをこなして物件オーナーとなった。
「これで不動産王に一歩近づいた・・」と、昨晩緊張のあまり寝不足だった私は、物件購入スピード以上のハイペースでアルコールがまわっていくのだった。