アラフォーOLが
不動産投資デビュー
してみた。

【Story8】売買契約で売主と初対面

不動産売買契約前の書類チェック

そんなこんなで、一気に2件のワンルームを購入することになり、同時期に手続きをアワアワと進めることになった。
売主側のスケジュールなどの都合で、最初に「売買契約」というステップに進むことになったのは2つ目に申し込んだ西新宿五丁目の物件(通称:風吹ジュン)となった。

契約日の3日前には売買契約書や重要事項説明書などの書類のドラフトを送ってもらい、不動産投資スクールの該当回のWEB動画を見ながら内容チェックを進めた。

画面を何度も一時停止しながら、血眼で書類をチェックした。区分のくせして容積率や建ぺい率を計算するなど不要な作業も行った。しかし、最初に失敗するとこの先は魅惑の不動産投資家への道に進めなくなるかもしれない。ここはいっちょお局スキルを発揮せねばならん。
ネチネチと書類を確認しては、都度仲介に「壁芯面積より内法が狭くなりすぎてるがナゼだ!」や「リフォーム規定の床材の指定がキツすぎないか!?」や「ギーギー、ガーガー!!」などとしつこく騒音おばちゃん的な質問をした。
(仲介の気の良いおじさんが快く対応してくれたのが救いだった)
慣れない用語や資料のチェックは思いのほかヘトヘトになったが、事前に疑問を全クリアしたおかげで当日は半目でヨダレを垂らしても大丈夫というくらいに余裕を持って迎えた。

不動産売買契約当日

契約は仲介会社のオフィスで行われた。
現オーナー側の管理会社の人や、宅建資格を持っている人や、私に仲介した会社からも担当者とその上司など、思っていた以上の人数が会議室には揃っていた。
最初は少し緊張していたが、説明を受ける書類は事前に目がカピカピになるまで読み込んだ内容で、疑問点も解消済みだ。恬淡と進む宅建士の説明に眠気が誘われ、いつしか私はリアルに半目になりそうだった。

そんな説明が7割程度進んだあたりで、背の高い男性が会議室に颯爽と入ってきた。現オーナー(売主)の人だ。
身長は190センチくらいの茶髪のオジサンだ。60才くらいなのに細身でベルボトム風のジーンズを着込み、絵に描いたような「チョイ悪オヤジ」という風貌だった。
「この人が私がラブを送るあの物件を捨てようとしている男か!」と妙なジェラシー?対抗心?が湧いてしまった。

仲介会社がごく簡単に「買主のマツコさんです」程度にお互いを紹介しあって、何事もなかったように宅建士の説明は続いた。チョイ悪さんもつまんなさそーにして、茶髪の前髪をいじっていた。

一通り説明が終わり、「じゃ、捺印などに移りますか」と一呼吸置く場面になった際に、私はチョイ悪さんへ徐ろに聞いた。
「あの物件素敵なのに、なんで売っちゃうんですかー?」と。
周りの人たちはちょっとギョッとした感じで私を見た。(注:あとで分かったのだが、この手の契約の際はお互いの仲介が作業的にガタガタと手続きを主導し、買主と売主は儀式的に対面しているものの、ほぼお互いは接触しない感じが通常らしい。
しかし個人的には、本来主役である売主と買主が居心地悪い感じでただ座っている雰囲気が苦手で、私はその後の契約場面でも売主さんに「何件くらい物件持ってらっしゃるのですか?」などと積極的に話かけるようにしている)

するとチョイ悪は「ボクはあの物件は見ずに買ったんだよー。今回他のオオモノ物件を買うために資金が必要でね。手持ちの1000万程度の物件を、何も考えずにいくつか売りに出しただけなんだ」と屈託のない笑みを浮かべて話した。
どうやらガチの国の不動産投資家のお方のようだ。「契約」というだけできっちりスーツを着込んだビギナーな私からすると、その手慣れた様子にかなりの玄人臭を感じた。
「でも申込みの時にマツコさんからのメールを見て、そんなに良い物件だったんだって初めて知ったよ」と、私の送った恋文メールをきちんと見ていたことは確認できた。

私は頷きながらも心の中で「あなたの捨てた風吹ジュンは、私が大切にお付き合いするからね」と、あの小ぶりで風情のある建物を温かい気持ちで思い出していた。

決済契約に向けて

眠くなったりジェラシーしたりしながら2時間弱が経過し、サインやら捺印やら一連の必要な作業は終わった。
お次は「決済契約」というステップのようだ。代金の引き渡しとそれに伴う鍵やら所有の権利やらの移行のステップだ。
ここでようやく「あの物件、手にいれたどー!」という状態になるのだ。

・・・といっても「ケッサイ」とやらで何をするかも分からない私はおとなしく仲介会社や売主さんとのやり取りを聞いていた。 どうやら売主・買主双方のメインバンクの窓口がある地域を決済場所として探しているらしい。
チョイ悪は「ボク〜、お台場に住んでて〜。そのあと近くのジムに行きたいからお台場だと嬉しいなぁ」と口火を切った。内心「げ!お台場は遠いよー」と思いながらも黙っていると、仲介Aは「お台場なら赤い銀行と青い銀行(お互いのメインバンク)の支店がありますね」。次に仲介Bは「駅の近くにドトールがあるのでそこにしますか」「付近にコンビニもあるので、書類のコピーも取れますねえ」と、私を蚊帳の外に置き、ゆるゆると話は進んでいく。

一方、当人である私は少々困惑していた。一世一代の投資、これまでの人生で最も大きな買い物なのである。
「決済契約」という硬質で厳かな響きから想像する儀式と、「ドトール」「コンビニ」というあんまりにもライトで生活感がある響きがどうにも結びつかなかったのだ。
ただ、先程の「通常はそ〜いうものか」という例もあり、さりとて口出しできるだけの経験もないため、その場は「ムへ〜」と口をつぐんでやり過ごすしかなかった。

速攻その夜、不動産投資の先輩(ファイナンシャルアカデミーのスクールの卒業生)に連絡をして、決済ってそういうものなのかを聞いてみた。
すると、先輩は「いや、通常は買主側がリードして色々指定できるはずだ」という反応。ついでに司法書士も売主側からの指定だったのだが、先輩が取引している司法書士の先生ならもっと価格を抑えられるとのこと。

未経験ゆえヘッピリ腰でその場を退散してしまったが、先輩の言葉で「よしゃ!買主の威厳を見せちゃる」と私は無意味にファイティングポーズを構えた。