アラフォーOLが
不動産投資デビュー
してみた。

【Story7】賃貸人の聞き込み、のち、衝動申込み

建物1階のイタリアンに潜入

気にしない人は気にしないだろうが、まだまだ初心者の私は「高齢入居者」というだけで、少しリスクを感じてしまう。
事前に仲介に「どんな人か」と聞いても、あまり良く知らないらしい。現オーナーも8年前にオーナーチェンジで購入したため、賃貸人はナゾらしい。

「聞き込みするで~」と心の中では新宿鮫のような気合をセットしつつも、「こんばんは~。一人ですが良いですか?」と表はグルメな熟女を装って、物件の一階にあるイタリアンに足を踏み入れた。
店主は気さくな兄ちゃんで一人で店を切り盛りしていた。
私はとりあえずグラスのスパークリングワインと豚肉のリエットあたりの「グルメっぽい」オーダーをした。兄ちゃんが気さくキャラだったので、「何年くらいやってるんですか?」とか世間話でジャブを打つ。兄ちゃんの口は滑らかだ。客と会話するタイプらしい。
しばらくして、私はワインリストを見て中の上くらいの価格のハーフワインとイベリコ豚の生ハムを追加オーダー。そこそこ金を落とす上客と見せかけて、兄ちゃんの口をさらに滑らかにしようという魂胆だ。

高齢賃貸人の様子を探れ!

「いや~、実はですね、私ここの3階の物件の購入を検討しておりまして、今日見に来たら想像以上に素敵で前向きに考えたいのですよ」と、特にウソをついてもしゃーないので、正直に自分の立場を告げる。
「それでですね、少し賃貸人の方がご高齢なのが気になってまして・・・、店長、ご存知だったりします?」とさらーっと振ってみる。
「ああ、知ってますよ。元気で礼儀正しい方ですよ」と、私が何より欲していたコメントが第一声から飛び出した。

そこからは悪口などではないので、兄ちゃんは素直に自分の知っていることを教えてくれる。
「まだ現役で、どこかで刺繍だか何だかの職人として勤務している」「植栽もたまに手入れをしている」「お店がオープンした時は友人おじいちゃんと来てくれ、元気に酒も飲んでいた」「たまに銭湯に行く前にも寄って、軽い食事を取る」などなど。
私は勝手に「孤独死」や「年金問題」(←関係ない)や「高齢者運転」(←さらに関係ない)などの物騒なワードが脳内を占拠していたが、どうも実際のおじいちゃんはかなりポップで元気な御様子。
「銭湯に行く」ということはユニットバスをあまり使ってない可能性はあるが、水回りの交換費用などを含めても、今の「1040万で家賃9万」というのはお得だ。
家賃が相場より高いため利回りを良好にしているのだが、売却の税金が減額になる5年後以降に賃貸人付きで売却するもよし、退去していたらリフォームをかけて1100万で売却するもよし(調べたら1階の同間取りの部屋は1300万で売りに出ていた)、と出口戦略も描けるように思えた。
しかもまだ検索サイトには出回っていない物件だ。私はワインと兄ちゃんとの語らいでホロ酔いになりつつも「シメシメ」とこの物件との出会いにご満悦になっていた。

海外投資家というライバル

次の日、すぐさま仲介会社に連絡を入れた。
すると「既に何件か申込みが入っている。現金満額もいるようだ」とのこと。私は「ギー!!」とムンクの叫びを上げながら意地になって「私も現金で申し込めますよ」と投資家としてはあるまじき感情的な発言をしてしまった。
「申込みしているのは海外投資家なので気が変わるかもしれない。優先順位は約束できないが、今からでもほぼ同時期扱いで申込みはできる」とのこと。そして私は「申込みます!」と魂の申込み書を送った。
「仲介のセリフは釣りだったのかな」という思いが頭をよぎったが、まだピヨピヨ投資家の私は「欲しい」という欲求の方が勝ってしまった。
その直後に、仲介にメールをした。
物件を紹介してもらったのは一昨日なので、海外投資家はきっと現地を見ていないに違いない。どこまで効果があるかは分からないが「ぜひ売主に伝えてほしい」というメッセージとともに、私が現地を見て「いかにあの物件が素晴らしいか。いかに自分があの物件を気に入ったか」という恋文を箇条書きで綴った。

そして次の日。
「他にも何件か現金満額の買付けがあったが、売主様よりマツコ様との契約締結意志の連絡をもらった」とのメールが入った。

喜びのち不安…

「よっしゃ!」と叫んだ。
しかし数分後、冷静になると「ど、どうしよ~」と、自分の置かれた立場に怯み始めた。
ここ2週間でワンルームとは言え2件の物件を購入することになってしまったのだ。
さ、さ、さすがにハイスピードすぎやしないか!?「シューイチ物件購入法」・・・ノンノン、聞いたことないわ、そんな投資手法。いや、それよりも、いつにいくらの現金が必要なんだろう。資産はほぼ金融商品にまわしているため、現金化せねばならん。海外株って解約から振込されるするのに日数がめっちゃ必要だったような!?そして、今後のフローは未知数。果たして仕事をしながらこなせるのか!?区役所って何時まで開いてるんだ!?マイナンバーカードはどこの引き出しに入れたんだ!!??
などなど、不安がイグアスの滝のごとく押し寄せた。

その日の夜はそんな不安な気分を抱えながら、そして不安を払拭するために、自宅のデスクで日本酒をちびちび舐めながら、各種タスクリストやシミュレーションファイルの更新をするのだった。