中村亨のビジネスEYE

大企業、新興買収に足踏み

BUSINESS EYE

昨年までに日本企業の関わったM&Aの件数は3850件(公表ベース、昨対比26%増)、金額は約30兆円(昨対比220%増)と、7年連続の過去最高を記録しました。

ところが、今年に入ってから日本企業が関わるスタートアップ企業に向けてのM&A件数が5年ぶりにマイナスになったと報じられています。

世界的な潮流である大企業とスタートアップがタッグを組んだ「オープンイノベーション」に乗り切れていないことを示す残念なニュースとも取れるのではないでしょうか。

今回の【ビジネスEYE】では、スタートアップ向けのM&A界隈で何が起こっているのか、迫ってみたいと思います。
(参考:日本経済新聞/2019年8月24日)

1.これまでのスタートアップに関するM&A動向

国内スタートアップを対象にしたM&Aと、15%以上の出資による持分法適用に相当する案件は、2019年1月~6月に37件と前年同期比で5%減ったそうです。
金額が判明している案件の合計額は57%減の115億円でした。

2017年の、KDDIによるソラコム買収のディールでは、KDDIは株式の過半数を200億円で買収したと言われています。
過去6年間のスタートアップ関連のディールでは最も大きな金額であったとはいえ、現状国内の総計が下回っていることを考えると、確かに件数がマイナスになっているとわかりますね。

米中の貿易戦争などで、景気の先行き不透明感が高まったためだと思いますが、実態は、大企業が本業や既存事業への回帰を進め、高リスクの懸念も強いスタートアップへのM&Aに慎重になっているとの見立てもあります。

先日の【ビジネスEYE】Vol.438でも取り上げた、キリンホールディングスによるファンケルへの出資を振り返ってみてもわかるように、既存事業をいかに加速させられるか?という視点のもとにM&Aが進められています。

景気回復に明るい材料がない限りは、この傾向が続いていくことになるのではないでしょうか。

2.実はスタートアップの企業価値が上がっている?!

リスクの高いM&Aへの警戒感だけではなく、世界的な投資マネーの膨張により、スタートアップ企業の評価額が高くなっていることが、件数減少の背景とも考えられます。
上場しないまま株式で資金調達を重ねて成長するスタートアップが増え、従来は手薄だった事業拡大期の企業に投資する投資家が増えたことが理由だと言えるでしょう。

2017年投資会社ポラリス・キャピタル・グループは、近頃エキナカスイーツとして人気を博しているバターサンドやチーズタルトのBAKEを、上場を見据えて買収を行ったそうです。
株式の全てを100億円強で取得したと言われており、事業拡大期の買収の代表例になっていると思います。
企業価値の高いスタートアップが、買い手を選ぶような局面も多いのかもしれません。

これまでも、企業がさらなる成長を見据えるためにはイノベーションの力が必要であるとお伝えしてきましたが、このままスタートアップへのM&Aが減少し続けると、イノベーション促進が鈍化してしまうでしょう。

米Googleが提供するスマートフォンの基本ソフト「Android」は、もともとスタートアップの技術でした。
Androidのように世の中を席巻するような技術を期待するのはまだ難しいかもしれませんが、スタートアップとの連携を模索することで、成長のヒントを掴める可能性もあるのではないでしょうか。

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。