中村亨のビジネスEYE

IFRSにおける営業利益の開示義務化

BUSINESS EYE

中村亨の「ビジネスEYE」です。

国際会計基準(IFRS)をつくる国際会計基準審議会(ISAB)で、企業に「営業利益」の開示を義務化する方向で議論が進んでいます。
「営業利益」は日本の会計基準では決まった定義がある一方で、IFRSでは企業の裁量が大きく、投資家からは比較しにくいとの声も上がっていました。

今回のビジネスEYEではIFRSにおける営業利益の開示義務化について、現状と方向性を見てみましょう。
(参考:日本経済新聞2022年3月3日)

日本では大企業を中心にIFRS導入が進む

日本では2010年3月期からIFRSを任意で適用できるようになりました。
適用会社は大企業を中心に広がり、IFRS適用の上場企業(予定含む)は21年10月末時点で248社、時価総額で4割を超えます。
IFRSの適用によりグループ各社の会計基準がそろい、グループ内の業績管理がしやすくなります。

段階利益の開示や定義は企業によって異なる

IFRSの損益計算書(PL)は売上高に相当する収益や最終損益などの開示は求められますが、営業利益などの段階利益の開示や定義は、
財務諸表の利用者にとっての有益性を踏まえて企業が判断することになっています。日銀によると日本のIFRS適用企業のうち、1割は「営業利益」を開示していません。
また、「営業利益」を開示している企業もその内容にばらつきがあったり、その他独自の段階利益を使う企業もあったりするなど、財務諸表の利用者にとっては、IFRSの業績は同業企業同士であっても比べにくいものになっているのです。

世界でのIFRS適用会社は増加傾向

IFRSは世界共通の基準を目指し、会計処理の基本的な考え方だけを定める原則主義を採用しました。
導入以降普及は進み、2018年時点では、140以上の国や地域が強制適用しています。
しかし前述のとおり、段階利益の定義が異なることから企業間の比較がしにくいとの声が挙がっており、投資家からはファンドに組み入れる銘柄のスクリーニングや財務分析のためにも、比較可能な段階利益の表示を求める意見が多く挙がるようになりました。

ISABによるIFRS改革方針

こうした声を受けて、IASBは比較しやすいPLに改善するための審議を、数年前から進めてきました。
主なIFRS改革の方向性は以下の通りです(開始時期は未定)。

  • 営業利益は売上高、売上原価、販管費などから算出。日本基準の営業利益には影響しない減損損失も含むもよう。
  • 企業活動をPL上での営業・投資・財務の3カテゴリーに分けて表記。営業利益はこのうち営業カテゴリーの帳尻の位置付け。
  • 企業独自の重要指標である「経営者業績指標(MPM=マネジメント・パフォーマンス・メジャー)」について、規律や透明性を高めるルールを設ける。

これらの改革に対する日本の市場関係者の反応は様々です。
「企業分析の際の手間がなくなる」という声がある一方、「原則主義による裁量をメリットと感じていた企業にとって、多様な企業活動に合わせた業績表示が難しくなる」などの懸念の声も聞かれます。

現状日本では、上場会社でもIFRSの強制適用はされていないことから、この影響を受けるのはIFRS任意適用会社に限定されます。

しかしIFRSの任意適用会社は着実に増えてきており、同業他社がIFRS適用に踏み切ったタイミングなどで、
皆様の会社もIFRS適用を検討する場面を迎えるかもしれません。その際に困らないよう、新聞・書籍・セミナーなどを通じて定期的に情報のアップデートを行ってはいかがでしょうか。

◆お問合せ◆
株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティング
電話:03-3593-3238
お問い合わせフォーム:https://co-ad.co.jp/contact/
◆セミナーのご案内◆
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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。