アラフォーOLが
不動産投資デビュー
してみた。

【Story16】ダブルの決済契約で4物件目のオーナーへ

2件同時の不動産決済契約へ

融資を受けようが、現金支払いだろうが、オーナーになる最後のステップは同じだ。もう3度目となる「決済契約」というお金や権利の引き渡しの儀式だ。

前回の現金の時と異なるのが、今回は融資利用となるため、契約場所は金融機関の会議室となる。前回「ド◯ール」などの取引き場所を探し回った時と比べると、「金も場所も貸してもらえるなんて!融資ってワンダフル〜」と下卑た感謝をしてしまったくらいだ。

また、もう一点通常の決済契約と異なる点があるとすれば、それは「2案件同時決済」ということだろう。
同時を狙ったわけではないが、阿佐ヶ谷の物件オーナーである「フランスの老女」の帰国日程を優先したり、月末に間に合わせようとしたりしたところ、結果的に1月の最終の銀行営業日の午前中に「大森」「阿佐ヶ谷」の2案件とも決済をすることになってしまった。

不動産決済契約の当日

契約で行うこと自体は「融資実行→マツコ口座に振り込み→マツコ口座から売主口座に送金→売主が着金確認」という極々シンプルなフローだ。
私からすると「極々シンプル」だが、仲介するTブラザーズからすると、物件も違えば融資金額も違う。準備する書類も2種類だし、管理会社も司法書士も違う。さらに細かい話をすれば、売主の到着時間もキャラクターも違うなかで、大きなお金の取引をスムーズに行う必要があるのだ。なかなか煩雑でプレッシャーのかかる儀式であろう。

私の心配をよそに、取引当日はブラザーズの強みを余すことなく発揮し、金融機関の準備した隣り合わせの会議室AとBの2部屋を兄・弟が適宜主導権を変えながら絶妙のコントロールをしてくれた。

例えば、大森のおじいちゃん大家は昔ながらの「通帳記帳」タイプだ。となると、着金確認に時間がかかる。この時間は買主である私にとっては、全くやることのない「待ち」の時間となる。
この待ち時間を活用し、「マツコさん、この時間はお隣の会議室Bへ。阿佐ヶ谷の賃貸関連の作業をしましょう」とエスコートをしてくれた。そして私が書類に捺印して朱肉のフタをパタンと締めた瞬間に、弟が会議室をノックし、別の書類を兄に渡す。
「こいつら、モールス信号でも飛ばし合ってるんかいな!?」と思うくらいの息ぴったんこの橋渡しだ。
そして、おじいちゃん不在の隣の会議室Aに阿佐ヶ谷のフランスの老女が登場したタイミングで「マツコさん、お次は会議室Aへ戻りましょう」などと兄に連れられ、会議室を移動する。その間にも銀行の担当者への必要なコピーの指示出しや、不器用な私のための書類のファイリング準備(後日私が確認などの作業が必要なものには手書きの付箋付き)と、てきぱきと契約を進行していった。

ブラザーズがささっと入れ代わり立ち代わり会議室を移動する分身の術を見ながら、変な話だが大学生のころ東京での初めての引っ越しの際に、リズミカルに荷詰めをする引越し業者に惚れ惚れした感覚を思い出した。
そして私は相変わらず「あうあう」言いながらも、言われるがままに書類に自分の安物の印鑑をぽんぽんと押していった。
おじいちゃんが通帳での着金確認が完了したとの電話連絡が入るのとほぼ同時に、阿佐ヶ谷のフランス老女はネットバンキングでさくっと着金確認を行い、ハイヒールを響かせ会議室から去っていった。

時間をフルに使いながらも、契約開始からきっかり2時間半後のお昼12:30にほぼ同時に2件の決済契約が無事に終了した。
ブラザーズ、結構なお手前だった。

金融機関を出てTブラザーズと私の3人のみになった時に、ようやく緊張感から解き放たれたとともに、私は心の底から2人に感謝した。
最初に物件紹介してもらった時から、今回晴れてオーナーになるまで、2人のサポートがないと成り立たなかった。熟女が若者におんぶにだっこというシュールな絵面だ。

私は2人に深々と頭を下げつつ「最後まで面倒見ていただき、本当にありがとうございました。ついては、ついては、、、ぜひ一緒に打上げをしましょー!!」と感極まった打診をした。
私のあまりの勢いに、二人は「ぎょっ」とした様子で「えっ!?…い、い、今からですか?」と間の抜けた返答をしたくらいだ。頼りあるパートナーから年齢相応の「会社の若手後輩」のような態度になってしまい、思わず私は大笑いしてしまった。
「いえいえ、もちろん後日の夜です。私がご馳走しますよ。行きつけの赤坂の店をご案内しますので。」と言うと、ようやく大人の仮面を取り戻し「あ、本来は弊社から申し出なくてはいけないところを…。ぜひご一緒させてください」と反応した。

契約のあとのお楽しみ儀式

Tブラザーズとは銀行の前で別れた。
そこで「いや〜、実は私はいまからでも昼飲みできるのにな〜」と午後の予定を空けていた私は不埒なことを考えながら、新宿の高層ホテルのレストラン街にいそいそと向かった。

最初の契約のとき経験した「ワンアップ」の快感がクセになり、「案件ごとの最終契約が無事に終了したら、ふんぞり返って昼ごはんに酒を呑む」と決めていたのだ。
今回は2件分なので、このイベントへの気合も2倍だ。私は事前に調べてあったホテルの老舗の鰻屋に入った。外食で鰻を食べるのは、これが人生初だった。
かなり威圧感のある着物の女将が登場してもひるむことなく「一人です」と堂々と言い放ち、4人ほどが入れるかなりゆったりとした座敷に案内された。メニューを見て、私の居酒屋一回分くらいの料金の「鰻重」なるものに膝がガクブルになりそうだった。が!そんな時は先程の契約書のゼロの数を思い出して、気を落ち着かせた。(←かなり間違った活用方法)
女将はこの手の「大仕事が終わったから、会社に戻る前に祝杯あげちゃえ」系のお局は珍しくないのか、私の瓶ビールのオーダーにも動じることもなかった。

運ばれてきた瓶ビールを、上品な細いグラスに注ぎ、きゅっと飲み干した。
五臓六腑に染み渡る。
続いて鰻重が運ばれてきた。価格から想像するとビックリするくらい小さな四角い箱だった。まずは一口鰻を頬張った。初めて食べる味だ。

その人生初の感想は「つ、土の味・・・!?」だった。

きっと分かる人には分かる美味さなのだろう。ただ、過去の人生で食品スーパーの出来合いの鰻しか食した経験のない私にとっては、料亭の高級鰻はそんな野性味あふれた残念すぎる表現になってしまった。

土か…、土か…。つまりこの次の目標は土地付き物件、すなわち「一棟モノ」と呼ばれる大物狙いだな、と高級鰻に便乗して貪欲に私は次の目標に思いを馳せた。