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story3 美容師の仕事に感じる限界

 

美容師の仕事を始めて4年あまりが過ぎた。22歳のころ、僕はオーナーから店長として渋谷の美容室を任されるようになっていた(オーナーは何店舗か美容室を経営していた)。
この1年前の1995年ころから、テレビや雑誌では「カリスマ美容師」が話題になり、頻繁にマスコミに取り上げられていた。独立して店を持ち、美容師として、またトップスタイリストとして活躍する彼らを見るにつけ、僕はうすうす気づきはじめていた。自分が美容師であるだけに、彼らとの間に明らかな差を感じ取っていたのだ。


その差は、うまいへたという技術的なものではない。技術的な差異が100と10も開いているかといったらそんなことはなくて、おそらく100と80くらいの差だと思う。
要は、カリスマ性のある人間とない人間の差だった。技術の差はそうないのに、自分にはカリスマ性がないように思えた。
おまけに、僕には社交性や女性受けする見栄えや話術もない。
美容師も技術だけでなく、コミュニケーション能力がないと成功しない。身近なオーナーを見ていてもそう感じる。


〈本当に、僕は美容師として独立してやっていけるのかな〉
自分の能力に対する自信の喪失や疑心が浮かんでいた。
このころ僕は腎炎を発症し、入退院を繰り返して、すこぶる体調不良だった。そのために気分が落ち込んでいたせいもあったのかもしれない。また、バブル崩壊のあおりをくらって客足も減り、美容室の売り上げが落ちていたことも気持ちに悪影響を及ぼしたのかもしれない。僕は1年ほど悩みながら、店長の仕事をしていた。
しかし、自分の夢がだんだんと自分の心の中から遠ざかっていくのは止められなかった。
僕は、美容師の夢を断念することに決めた。体調不良を理由に、退職願を出した。

 

消え去ったトップスタイリストの夢

オーナーは僕のことを心配してくれ、回復したら戻っておいでと言ってくれた。
ある日、僕は星さんにも美容室をやめる決心を告げた。すると星さんは驚く様子を見せずこう言った。
「自分にもっと向いているものを見つけたのかな。ちゃんちゃんとやる君なら成功するさ。君を見ていると、『ちゃんちゃんとやる』という言葉が浮かんでくるよ」


「何ですか、それ?」
いぶかしげに見返す僕に、「映画監督の今村昌平の口ぐせだよ」と教えてくれた。「ちゃん」とやるのは当たり前で、さらに「ちゃん」とやる意識を持つことだという。
〈僕は、ちっともちゃんちゃんとやれている人間じゃないのに……〉


でも星さんが励ましてくれていることは伝わったので、とりあえず礼を言った。
僕は、やめる理由を星さんに聞いてほしかった。彼の口から、自分の美容師としての評価を聞きたかった。
カットとシャンプーを終えた星さんは、帰りがけにこう言った。
「君は相手から慕われる性格のようだけど、相手への気づかいも忘れないようにしないといけないね」


4年ほどのつき合いだった星さんからのはなむけの言葉だった。僕は5年近く勤めた美容室をやめた。
やめると、これまで悩んでいたことがまるで嘘だったかのように、美容師の夢もトップスタイリストの夢も、僕の心からあとかたもなく消え去ってしまった。

転職を繰り返すフリーター生活の始まり

思い切って美容師の道を断念した僕は、しかし、さしあたってこれをしたいというものを見つけ出せないでいた。
美容師時代、とくに腎炎で入退院を繰り返しながら自分のオ能に悩んでいたころ、人生の「ドン底」だと思っていた。ところが美容師をやめてからの生活のほうが、経済的にも精神的にもさらなるドン底だった。
社会に出て成功する道は自分のビジネスを持って独立すること――そう自分に言い聞かせていた僕はトップスタイリストを目指したが挫折した。
挫折した僕には、中学卒業の学歴しかない。学歴がなければ、いい仕事につけない。それならば、やはり手に職をつけるしかない。あるいは大検をとって大学へ行くか、何かの資格をとって独立する。そういうストーリーしか残されていない。弁理士という仕事を選択した父親と似たような人生だ。


「ちゃんちゃんとやる君なら成功するさ」
星さんの言った言葉が頭に浮かぶ。おそらくオーナーや星さんは、僕が美容師として一人前に成長し、将来独立して店を構えるだけの資質があると見込んで、いろいろとアドバイスをしてくれたのだろう。
でも僕は、実は美容師としての自分の才能やカリスマ性に悩みはじめたころから、美容師以外のビジネスで、独立して成功する道はないかと考えはじめていた。


オーナーや星さんから話を聞くうちに、僕の中に「ビジネス」「経営」といったものに対する興味が生まれていた。
もちろん自分の美容室を持つことも独立であり、経営であり、ビジネスであるが、それとは違う「ビジネスモデル」を作ってみたいという気持ちが起こっていた。
それも、美容室をやめた一因だ。
とはいえ、自分の人生の歯車を回しはじめるだけの何かを考え出していたわけではない。持てる知識を動員して考えてはみたが、漠然としたイメージしか浮かばない。したいことが何であるかを見つけ出せないでいた。


転職を繰り返し、フリーター生活が始まった。どんな仕事も月収は10万円とか15万円とか、そんなレベルだ。
あるときは、ペットフードの営業やゴミ収集車の運転手、それに日一雇い仕事もした。ペットフードの営業では、真夏でもスーツを着込んで都心の高級住宅街を一軒ずつ回って歩いた。話を聞いてくれる家は100軒に1軒くらいしかない。効率がとても悪かった。
そこで僕は、アルバイトにもかかわらず上司に許可を取って自分のお金でチラシを作り、公園にチラシを貼る営業をした。
その結果、従来の訪問営業に加えて、チラシからの問い合わせも入るようになった。それでも効率の悪さは相変わらずだったのでやめてしまった。

カネなし、夢なしのドン底時代

次にやったのは日雇い仕事。この仕事では朝6時に家を出る。工事現場やイベント会場に8時に行き、作業員を一日やる。仕事を終えると会社に戻って、日給6800円とか7000円の現金をもらう。続けていると、その日のお金のためにただ漫然と働く毎日が繰り返される。そんな生活に慣れていくのが嫌だった。


また、僕はもともと電話が好きではないのだが、テレアポの営業をしたこともある。これもペットフードのときと同じで、効率の悪さを感じた。それを指摘して社長と喧嘩になり、テレアポは3日でやめてしまった。
そういえば、面接に行って逃げ帰ってきたこともある。
電気機器の販売という仕事だったが、一個50万円の商品を売ってくれば、10万、20万円のマージンを出すという。そんないい話自体、怪しい。この手の訪問販売はいろいろあるがその中の「悪徳業者」だった。相手の不安心理をあおろうとするやり回が面接途中でわかってしまった。
ゴミの収集車の運転手をしたこともある。将来、環境ビジネスが流行るだろうから、リサイクルや廃棄処分の現場で働いてみたいと、いろいろ探してみたりした。その中の一つがゴミ収集という仕事だった。


産業廃棄物業界でも働いてみたが、裏稼業の人が絡んでいたのでやめてしまった。
働く意欲はあったが、働いてみると必ず「何か違うな」と思うところが出てくる。そしてやめるということのくり返しだった。
やめてしまえば、お金は入ってこない。生活は苦しくなる。ならばやめないでがんばる、という風にはなれなかった。僕は「自己中心的」なのかもしれない。


当時の僕はいまから考えると、根性がなく、踏んばる力がなかった。
そんなわけで、経済的に苦しかったが、それくらいの貧乏は若い僕にとっては耐えることができた。
むしろ、働いてみたけれども自分に合わないとか、自分の好きな仕事がなかなか見つからないとか、そういった精神的なつらさのほうが貧乏よりも厳しかった。
夢を見つけられないという点では、美容師時代よりも、さらなるドン底だった。

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著者プロフィール
泉 正人

日本初の商標登録サイトを立ち上げた後、自らの経験から金融経済教育の必要性を感じ、2002年にファイナンシャルアカデミーを創立、代表に就任。身近な生活のお金から、会計、経済、資産運用に至るまで、独自の体系的なカリキュラムを構築。東京・大阪・ニューヨークでスクール運営を行い、義務教育で教わらない「お金の教養」を伝えることを通じ、より多くの人に真に豊かでゆとりある人生を送ってもらうための金融経済教育の定着を目指している。

『お金原論』(東洋経済新報社)、『お金の教養』(大和書房)、『仕組み仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書は30冊累計130万部を超え、韓国、台湾、中国で翻訳版も発売されている。 ファイナンシャルアカデミーグループ代表、 株式会社FLOC代表取締役、 一般社団法人金融学習協会理事長。


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