「お金のプロ」という定義。

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先日の日経新聞で「お金の教育 小学生から」という、とても興味ある記事を見つけました。

子どもたちが大人になったときに必要な投資の知識を、どう習得させればよいのかということについて、3人の事例をもとに書かれている記事です。

そこでは、3人の専門家が「お金のプロ」として登場しており、そのお金のプロ達がどのようにご自身のお子さんにお金の勉強をさせているのかが具体的・実践的にまとめられていました。

その内容は三者三様。
お小遣いの使い方から、貯蓄や外貨の取り扱いまで様々な教育を家庭で行っているということが伝わる、とても面白い記事でした。

でも、私にはひとつだけ気になった点がありました。
それは、この3人の専門家は、本当に「お金のプロ」なのだろうか、ということです。

「お金のプロ」とは、どういう人のことを指すのか。

この定義を正しく定めておかないとこうしたお金の教育が間違った方向に広がってしまいかねません。

その人が、本当は「お金のプロ」ではないとしたら、その人がおすすめしたことや実践していることをお手本とすることが正しいとは限らないからです。

例えば、為替ディーラーの方の例が出ていましたが、この方は本当に「お金のプロ」でしょうか。

ファイナンシャルプランナーの方の例も出ていましたが、この方は本当に「お金のプロ」でしょうか。

もちろん、このように新聞の取材を受けているわけですから為替ディーラーとしては専門家でしょうし、ファイナンシャルプランナーとしても一流の方であるはずです。

でも、そのことと「お金のプロ」であることはイコールではないのでは、と私は思っています。

たとえば、サッカーを例に考えてみましょう。

サッカーショップで、サッカーボールやサッカーウェアの販売やアドバイスをしている店員やそうしたグッズの卸売をしている業者は、「サッカーのプロ」でしょうか。

それで生計を立てているわけですから、サッカーに関連するビジネスのプロではありますが、「サッカーのプロ」とは呼びません。
「サッカーのプロ」というなら、プロサッカー選手を指すのが普通です。

「料理のプロ」ならどうでしょうか。キッチン家電や料理グッズの販売やアドバイスをしている店員は「料理のプロ」でしょうか。
「料理のプロ」というのは、当然料理人のことです。

ではもう一度、「お金のプロ」とはどういう人かを考えてみてください。
銀行の窓口にいる人、証券会社で顧客向け営業をしている人、保険の販売をしている人。

こういった方々は本当に「お金のプロ」でしょうか。

その方々にとってお金は、サッカーボールやキッチン家電と同じ「商品」です。

その商品を買ってもらったり、アドバイスすることを仕事にしている、「お金に関連するビジネスのプロ」であって、お金そのもののプロであるとは限らないのです。

ましてや、教育に関してはどうでしょう。
実際に子どもに実践したこうした教育が本当に実を結ぶのかは大人になってみないとわかりませんし、もし自分自身のお金との付き合い方が「プロ」と言えるレベルであったとしてもそもそも「お金の教育のプロ」ではないわけです。

「お金のプロ」とは、どういう人のことを指すのか。

お金について正しく向き合う、という文化が未成熟な今の社会では、こういった定義自体がまだまだ曖昧です。

社会全体でこうした定義を明確にし、共有していくためにも本当のお金の教育が必要なのだと、私は思います。

著者プロフィール

泉正人

日本初の商標登録サイトを立ち上げた後、自らの経験から金融経済教育の必要性を感じ、2002年にファイナンシャルアカデミーを創立、代表に就任。身近な生活のお金から、会計、経済、資産運用に至るまで、独自の体系的なカリキュラムを構築。東京・大阪・ニューヨークでスクール運営を行い、義務教育で教わらない「お金の教養」を伝えることを通じ、より多くの人に真に豊かでゆとりある人生を送ってもらうための金融経済教育の定着を目指している。

『お金原論』(東洋経済新報社)、『お金の教養』(大和書房)、『仕組み仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書は30冊累計130万部を超え、韓国、台湾、中国で翻訳版も発売されている。

ファイナンシャルアカデミーグループ代表。
泉自身が講師を務める月額動画コンテンツ
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