なぜ契約は守らなければならないのか

2017年3月24日

-なぜ、あなたは、その契約を守るのですか?
-なぜ、相手は、その契約を守らなければならないのですか?

今月のコラムはこんな問いから始めてみます。
相手とお金の貸し借りをするとき、パートナーとビジネスを始めるとき、相手と契約を交わします。
契約書にサインを交わします。
その契約をあなたは守るでしょう。
相手もきっとその契約を守るでしょう(期待を込めて)。
でも、もし、相手が守らなかったら……。
心配です。
契約書どおりに守ってほしいです。
契約書でしっかりと内容を決めておきたいです。

でも、しっかりと内容を決めるってどういうこと?
相手に契約を守らせるってどういうこと?
そもそも、契約はどうして守らなければならないのか?

こういうお悩みに遭遇したとき、そもそも契約ってなんだ?という「そもそも論」に立ち戻るとヒントが見えてきます。
ジグゾーパズルのピースを思い浮かべてください。
自分の実現したいことが凸のピースです。
相手の実現したいことが凹のピースです。
この二つのピースがぴったりかみ合うと、両方から引っ張っても二人は離れません。
だれかが間に入ったわけでもありません。
けれど、二つのピースはしっかりくっついて離れません。
相手が逃げようとしても追いかけることができます。
これが契約の拘束力です。契約を相手に守らせることができます。

他方、同じく並んだ二つのピースでも、互いのでっぱりとひっこみが違う形だったらどうでしょう。あるいはそれぞれの輪郭(りんかく)がぼんやりふんわりしてたらどうでしょう。
二つはぴったりかみ合ってないし、かみ合ったようでも境目(さかいめ)がぼんやりしていれば、引っ張るとすぐに離れてしまいます。
相手が逃げたら逃げられっぱなし。追いかけられません。
いくら契約だといっても相手に守らせることはできません。
上のふたつのパズルの違いは何でしょうか。
それは、自分の実現したい凸のピースと、相手の実現したい凹のピースとがぴったりと一致しているかどうかです。
自分の考え(意思表示)と、相手の考え(意思表示)が一致しているとき、
二つのピースが引っ張っても離れないのと同じように、二人は契約に拘束されます。

これが契約の拘束力の根拠です。
お互いの考えがぴったり一致しているがゆえに、契約は守らなければならないのです。
例えば、
自分の凸は、自分が相手に提供するモノやサービスと、その対価として受け取るお金です。
相手の凹は、相手が自分から受領するモノやサービスと、その対価として支払うお金です。
①二人が考える凸と凹が同じものを指しているとき(ぴったり)、そして、
②自分の提供すべきモノやサービスの範囲が明確であり、それに対していくらのお金を払うのかの定めが明確であるとき(くっきり)、
契約はたしかに相手を拘束する内容になります。
逆に、かたちばかりの契約書があっても、
①二人の思い描く凸と凹のかたちが違ったり、
②モノやサービスの範囲や代金の定め方があいまいだったりすると、
いざというときに相手を拘束できません。
相手から「そんなお金借りてない」とか、「思ったようなサービスのレベルに達してない」「期待していた働きをしてくれない」などとクレームが付き、「だからお金は返さない」「だから代金は払わない」などというトラブルに発展します。
ですので、契約書を作るときや契約書にサインをするときは、
①お互いの考えがぴったり一致しているか、②あいまいな用語が使われていないか、
に注意するとよいでしょう。
①を確認するためには、お互いに声に出して読み合わせをすることをお勧めします。
声に出して自分の声を体の外から聞いてみると、「こういう場合はどうなの?」とか「こういうサービスは代金に含まれるの? それとも別料金?」といった疑問点が浮かび上がり、それを互いに共有できます。そうすると、「その場合はこうしましょう」とか「それは別料金になります」といった会話ができ、互いの思い違いを防げます。
②を確認するためには、「等」とか「~に関する一切の業務」とか「合理的期間」などといった、広くも狭くも解釈できる言葉に注意しましょう。
こういう言葉を完全に避けることはできませんが、例示はできるだけ限定的にしたり(ex「以下の業務に限る」)、期間は数値化したり(ex「7日以内に」)などの工夫をしたいところです。
これらを意識するだけでも、契約書の出来栄えはだいぶ違ってきます。
互いの考えがぴったり一致し、権利と義務がくっきり明確に定められた契約書を交わして、強い信頼感で結ばれた二人が新しく取引をはじめ,新しいビジネスを始めたならば、きっと素敵なデザインのパズル絵が浮かび上がることでしょう。
そんなシナジー効果が生まれる契約書を、ぜひ皆さまには結んでいただきたいです。

この記事のライター

波戸岡光太

弁護士。アクト法律事務所。
「困っている人を助けたい」-少年時代からの熱い思いを胸に、2007年に弁護士となる。経営者とビジネスパーソンをもりたてるパートナーとして、契約トラブルや債権回収問題の予防・解決を中心に取り組む。
経営者向けコーチングスキルも兼ね備え、依頼者と伴走しつねに最高の解決を目指す。
東京都港区赤坂3-9-18赤坂見附KITAYAMAビル3階
http://www.hatooka.jp

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