「来月きっちり返すから、10万円だけ貸してくれないかな。」
このように親友から言われたら、あなたはどう思いますか?
「そうだな、貸してあげてもいいかな。」でしょうか、
「いや、返してくれるか分からないからやめておこう。」でしょうか。
どちらにしても、選択権はこちらにあります。
貸すも貸さないもこちらの自由。
貸してあげるも貸してあげないも貸主の自由。
そう、お金を貸す前は、「貸主が強い」です。
「身内に不幸があって、15万円必要なんだ。もちろん返すから」
「新しいビジネス始めるのに、いったん20万円入れてくれないか。すぐに返すから」
このようなことを言われると、貸主はいろんなことを考えます。
貸してあげようか、力になってあげようか、契約書を作ろうかどうしようか。。。
自分に決定権がある限り、貸主は強い立場にあります。
では、「貸主が強い」のはいつまででしょうか?
貸したものは返すのが当然の義務ですから、完済されるまで貸主が強いでしょうか。
それって本当でしょうか。
たしかに権利としては、完済されるまで、貸主が権利を持ち続けます。
同時に、借主は完済するまで返済する義務を負い続けます。
そういう意味では、貸主は法律上守られています。
でも、実際のところはどうでしょう。
もし借主が逃げて行方が分からなくなってしまったら?
もし借主が失職したり倒産したりしてお金が無くなってしまったら?
もし借主が「返すお金がないんです」と土下座なんかしてきたら?
権利はあるけれど回収できない。
返せと言えるけれど返ってこない。
そういう事態が発生します。
今日もどこかで「お金が返ってこない」と嘆いたり怒ったりしている貸主さんがいらっしゃいます。
なぜこういうことが起こるのか。
お金を借主に渡した瞬間から、貸主はそのお金を自分の手で直接つかむことができなくなります。
借主がお金を貸主に戻すかどうかは、借主がお金を貸主に渡すかどうかにかかってきます。
そう、「お金を貸した瞬間」から、貸主の立場は弱くなるのです。
お金が貸主の手元を離れた瞬間から、お金を返すかどうかの選択権が借主に移ってしまうのです。
貸主は借主のポケットに無理やり手を突っ込んでお金を奪い取ることはできません。
貸主はお金を返してくれと「要求できる権利」を取得するだけです。
それまで自由に動かせたお金が、自分の手元を離れた瞬間から、貸主はお金を直接コントロールできなくなり、事実上、貸主は弱い立場に置かれてしまいます。
言われてみればもっともかもしれませんね。
だからこそ、その弱い立場をカバーするために、返金を要求できる権利が発生するとも言えます。
それでも、お金が自分の手元を離れたという事実は変わりません。
貸主はお金を貸した瞬間から、お金が返ってこないリスクを背負うのです。
リスクは現実化する可能性があります。まさか返ってこないことはあるまいと思っても、貸すという行為は「リスクを引き受ける行為」です。
なので、万一お金が返ってこない事態になった時に、「正直者がバカを見るのか」「人を信じた自分は泣き寝入りするしかないのか」と嘆いたところで、(厳しい言い方ですが)無意味なのです。
それよりも、「貸す=当然に返ってくる」という考えを改めなければなりません。
「貸す=返ってこないかもしれない。それでもいいの?」なのです。
だから、貸すときには、そのリスクをどう抑えるのか、どう避けるのか、そこの対策を練らなければなりません。
あとで借りた借りてないという言い合いにならないよう、契約書を交わすのは最低限必要でしょう。
相手の連絡先や勤め先、取引銀行もできれば知っておきたいです。
さらに、物に対する担保(抵当権など)や、人に対する担保(連帯保証人など)をとることも考えておきたいです。
そして最後は、「万一返ってこなくても大丈夫か?」です。
お金を貸した後に起きる出来事は
・期限どおり返ってくる
・期限を過ぎて返ってくる
・一部だけ返ってくる
・全く返ってこない のいずれかです。
このほかの事態は考えられません。
返ってこないとしても、それは「まさか」ではないのです。
ですので、人から求められてお金を貸すときは、お金が返ってこないリスクに備えての対策を予め検討しておいてほしいと思います。
そして、万一のときに「なんてことだ!」などとはならない状態になっておいてください。
もちろん、期限どおりに返ってこないことが起きたとしても、すぐにあきらめる必要はありません。
繰り返し要求することで相手の返済意欲を高めたり、訴訟や強制執行といった法的手段に訴えたりするなど、いくつかの制度や方法は用意されています。そのあたりは、別のコラムでしっかりと書きたいと思います。
え? 自分に限ってそんなリスクは起きないって?
そんな考え方が、もう、リスクです(^^;