慰謝料はどんなときにいくら請求できるのか 〜慰謝料の性質と目安〜

2017年7月28日更新

「こんなつらい思いをしたのだから、慰謝料請求したいんですけど!」
相談者Aさんの目には力がこもり、相手を思い出してはこみあげる悔しさをこらえている様子でした。私はAさんに何があったのか、ひとつひとつの出来事を順番に聞いていきました。Aさんは、自分の気持ちをおさえながら、ゆっくり語り始めてくれました。
じつはAさんのケースに限らず、日ごろの法律相談でも、慰謝料がとれるのかどうか、金額はいくら位請求できるのかというご相談はとても多く受けます。
トラブルという出来事そのものがネガティブですから、嫌な思いをしたり、つらい思いをしたりするのは、いわば当然の心の動きであり、慰謝料に関心が向くのも自然な流れといえます。
この慰謝料とは、精神的苦痛に対する賠償金、つまり心が傷ついた場合にそれをお金で埋め合わせるものをいいます。民法では、財産に対する損害賠償のほかに、精神的苦痛に対する損害賠償として慰謝料の請求を認めています。
では、心が傷つけば、いつも当然に慰謝料が発生するのかというと、それも考えものです。
人は社会のなかで生活し、他人とのかかわりの中で生きています。
人とかかわれば、嬉しく楽しいこともあれば、つらく嫌なことも起きます。
嫌なことが起きるたびに慰謝料が発生していたら、世の中成り立ちません。
離婚で言えば、離婚そのものがお互いにとってつらく嫌な出来事ですし、それを相手のせいにし合っても仕方ありません。幸せな結婚生活ができなかったのは相手のせいだといって慰謝料を請求し合っても、むしろ悲しみが増すだけです。
でも、実際に慰謝料が発生するケースはあります。
結婚相手が不倫をした場合、DVをした場合、けんかで相手をケガさせた場合、交通事故で入通院させられた場合、ネットに名誉を汚す書き込みをされた場合、パワハラを受けた場合…。
これらに共通することは何でしょう。
それは、人の心を傷つけた相手の行為が「違法」である場合です
違法とは、悪さのレベルが“法律上許されないレベル”を超えた場合をさします。
例えば、待ち合わせの時間に遅れたとか、話を聞きながらあくびをしてしまったというレベルの悪さは、悪いことには変わりないけれど、法律上許されないレベルを超えてはいません。ですから、それで人の心が傷ついたとしても、慰謝料は発生しません。
けれど、上に述べた不倫、DV、暴行、運転ミス、名誉棄損、パワハラは、いずれもその悪さが法律上許されないレベルを超えています。ですから、これで人の心が傷つけば慰謝料が発生します。
このように、相手の行為が違法であり、“法律上許されないレベル”を超えた場合には、それによって心が傷ついた人は慰謝料を請求することができます。(ちなみに、違法の中でもさらに違法のレベルが高くなると刑罰が科せられることもあります)
それでは、一体いくらの慰謝料が請求できるのなのでしょうか。
これは本当に難しい問題です。
そもそも人の心はお金には代えられませんから、お金で代えられないものをお金で代えるというのは矛盾しているとさえいえます。
信頼していたパートナーに不倫をされた、DVを受けた…。どんなにかつらく苦しいことでしょう。お金を受け取ったところで悲しみがなくなるわけではありません。
けれど、相手に償わせるための、心の傷を埋め合わせるための金額は定めなければなりません。
また、実際に多くの慰謝料事件が裁判所に持ち込まれているので、裁判上の類似事案を並べると、目安らしきものものをつかむことはできます。
例えば、不倫の場合、100~300万円の範囲で裁判官は金額を決めることが多いのではないかと思えます(もちろんその範囲を超える事案もあります)。
また、けがをさせられた場合は、『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』という本(表紙が赤いので「赤い本」と呼ばれています)に載っている慰謝料算定表が用いられることが多いです。この算定表では、入院1か月なら53万円通院3か月なら73万円などという目安が書かれています。
その他には、「100万円ルール」という基準を裁判官は持っているのではないか、つまり、裁判官は慰謝料をどのくらいにしようかと考えるときに、100万円をひとつのスタンダードとして持っていて、それよりも多いか低いかで決めるという考え方をしているのではないかという、まことしやかな噂もあったりします(でもその噂も最近は聞かれなくなりました)。
このように、慰謝料をめぐっては、どういうときに発生するのか、どのくらいの金額が妥当なのかについて、それぞれ一筋縄ではいかない深いテーマを抱えています。
それはなぜでしょうか。
それは、慰謝料の対象が「心」だからです。
心は、目に見えない、つかみどころのない、それでいて一番大切なものです。
その心が「傷つく」とはいったいどういうことなのか。それを考えさせられるからでしょう。
慰謝料を考えることは、自分の心と向き合うことでもあるのです。

この記事のライター

波戸岡光太

弁護士。アクト法律事務所。
「困っている人を助けたい」-少年時代からの熱い思いを胸に、2007年に弁護士となる。経営者とビジネスパーソンをもりたてるパートナーとして、契約トラブルや債権回収問題の予防・解決を中心に取り組む。
経営者向けコーチングスキルも兼ね備え、依頼者と伴走しつねに最高の解決を目指す。
東京都港区赤坂3-9-18赤坂見附KITAYAMAビル3階
http://www.hatooka.jp

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