11月は厚生労働省が定める「ねんきん月間」です。公的年金制度、特に将来受け取る老齢年金に関して不安の声をよく聞きますが、その多くは「よくわからないことに対する不安」のようです。未来を正確に予測することは難しいですが、正しい情報と考え方を持つことで解消されることも少なくありません。ただ漠然と不安を抱えるのではなく、ご自身で考えるべき課題を見つけるためにも、キャッシュフローと一緒に考える癖をつけましょう。
公的年金制度の現状
長期に渡る制度維持が必要とされる公的年金制度では、健全性をチェックするための財政検証が5年に一度実施されます。多くの人の関心は「将来どのぐらいの金額を受け取れるのか?」という点ですが、実際には賃金水準も変わるし物価も変わるので、単純に金額を見てもその価値はわかりません。
そこで利用されるのが所得代替率です。所得代替率とは、年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示しています。細かい点はさておき、2019年度で61.7%の所得代替率は、2046年に51.9%となると試算されています。数字だけでは、年金が大幅に下がるように見えてしまいますが、これは現役世代の賃金水準が上昇するために起こることです。物価上昇を考慮した上での年金額は、モデル世帯における現在の月額22万円が月額21万円に微減するだけで、ほとんど変化がないと試算されているのです。
年金資金は自分自身のキャッシュフローと一緒に考える
そうは言っても、やはり不安は拭えません。そこで大切なのが「21万円の収入で自分たちの生活がどうなるのか?」を確認することで、そのために必要となるのがキャッシュフロー表の作成です。作り方は簡単。ご自身や配偶者の年齢を横軸に、その年齢時点の収支状況と貯蓄残高を縦軸に取った表を作成するだけです。縦軸の具体的な項目は「①年間収入、②年間支出、③年間収支、④貯蓄残高」の4つのみ。
例えば、モデル世帯通りに年金月額が21万円だとすると、①年間収入は252万円。「70歳までは月10万円ぐらいの収入を得るのは難しくないだろう」と考えるのであれば、そこに120万円をプラスした372万円となります。
次に②の支出ですが、こちらは毎月の生活費が基本となります。2017年の家計調査による60歳~69歳の消費支出は約29万円なので年間348万円。ただ、高齢無職夫婦世帯の消費支出は約23.5万円ですから、どの統計を使うかで1ヶ月に5.5万円も差が出ます。大切なのは「自分の場合はいくらあれば生活できるか?」を真剣に考えることでしょう。
①年間収入と②年間支出の数字が出たら、差し引きして③年間収支を出します。先ほどの例だと①が372万円、②が348万円なので、③は24万円となります。
最後の④貯蓄残高は、前年の金融資産残高に③の数字を加えるだけです。仮に③の数字がマイナス(支出の方が多い状態)となれば、その分だけ差し引けばよいのです。貯蓄残高が減る様子を見ると心配になりますが、「老後生活費として取り崩すために貯蓄してきた」ことを考えると当然のことです。キャッシュフロー表があると、いくらまでなら安心して取り崩すことができるかもわかりますし、逆を言えば退職までに貯めるべき金額もわかるわけです。
具体的な数字を考える第一歩
情報に踊らされず、自分事として考える第一歩が、ここで触れたキャッシュフロー表の作成であることがお判りいただけたと思います。この表はご自身で十分作成できますが、専門家に作成を依頼すると、自分では気付いていなかった様々な要素も考慮できるので一度検討してもよいでしょう。
今年話題になった「老後2,000万円不足問題」も、元になった数字は全国平均の収入と支出で試算した収支差額の累計額ですから、今回ご紹介した③の数字の累計です。ただ、自分がいつまで働けるのか、その際の収入がどのくらいになるかは人それぞれですし、生活費も人それぞれです。多くの人にとって関心の高い年金問題は、これからも様々な形で報じられると思いますが、その際は「自分の場合はどうかな?」と考え、さらに簡易でも良いので、キャッシュフロー表を作成してみることをお奨めいたします。
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