イラストレーターであり、エッセイストでもある著者は、ファッション・インテリア・旅・映画など、さまざまなジャンルにおいて、おしゃれで心地いい生き方を提案してきた人物です。雑誌の挿絵などで、著者のイラストを目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
その著者も、本作執筆時には70歳を過ぎているといいます。西村玲子著『玲子さんののんびり老い支度』 より、素敵だけれど気取らず無理をしない、老い支度の考え方をご紹介します。
今、何が大事なのかということに集中する
窓辺にパソコンの机を移して外の緑を見ながら仕事をしている。遠くの大学で太鼓を叩いて応援歌を歌っているのが風に乗って届く。その音が心地よいような、胸騒ぎにつながるような、複雑な思いでいる。中略
そんなことがあって、今何が一番大事か、というシンプルな思考に集中しようと思う。
<第1章より引用>
2016年秋には、1ヶ月近く入院したという著者。病名は肺がんであったといいます。退院して回復していく自分と向き合いながら過ごす日々。いろいろなことの原点に立ち返る良い機会を得たと著者はいいます。
そうはいっても当初は、突然の肺がん宣言に涙が滲み、「どうして私が、嘘でしょう」という疑問の方が立ちはだかって理解不能になったのだとか。
やがて、病気というものはそんなものなのだと知るに至ったのだといいます。突然やってきて、いろいろなものをさらっていく。けれど、逆に大切なものに気づかせてくれたのだと著者は語ります。
たとえば、価値観や家族の深い愛情。なんでもないことが、かけがえのない幸せであり、優しい気持ちと向き合うことができたのだとか。それを「病気からの贈り物」であると著者はいいます。
もちろん病気にはならないに越したことはないでしょう。しかし、今、何が大事なのかということに集中する。
会いたい人は誰か、どんな服装でいたいのか、どんな書物を読んでどんな映画を見たいのか……。そうなったときに、今の自分がこれから人生とどう向き合っていくのか、そのあり方が重要なのかもしれません。
90分で学べる、定年後の不安を解消したい方必見!
好きなことをあきらめない
打ち合わせにいらしたSさんが、大胆な花の刺しゅうを施した白いブラウスを着ていた。定年前はホビーラホビーレで活躍されていたSさんである。久しぶりにお会いするとどこか大胆。そういえば大胆な着こなしができる人だったと、その刺しゅうブラウスを見て思い至った。「ZARAのものよ、今いろんなタイプのものが出ていますよ」。その後友人のインスタグラムにもそのブラウスが出ていた。
<第3章より引用>
著者の世代の女性たちが集まると、昔の女優さんたちは綺麗だったわね、今はその辺の人と変わらない人ばかりですものね、などといった会話になるのだとか。
エリザベス・テイラーやグレース・ケリーといった往年の大女優たちを褒め称える会話に、否定するでもなく著者も相槌を打つのだといいます。
今も胸にしまっている大好きな昔のハリウッド女優。その存在と同じように、青春時代をアイビーで過ごした著者にとって、トラッドは永遠のものであるといいます。
ずっと変わらずに、好きなものを大事にする生き方はとても素敵です。反面、著者は、新しいものにも目を向けています。
若手アーティストの展覧会をチェックして、伝統とアートの融合を堪能したり、ファッションやインテリアにも最近のデザインを取り入れて。
自分に似合う・似合わないを吟味しつつ、いくつになっても好きなものをアップデートし続けています。無理はしないで自分らしい生き方をし続けていくコツは、こんなバランス感覚にあるのかもしれません。
できる範囲でチャレンジし続ける素敵な老い支度
「玲子は自分の病気を自慢しているの?」。著者はあるとき、自身の息子からこんな風に言われたのだとか。
心のどこかで憐れんでもらいたいと思っているのか、そんな気持ちはないつもりだったけれど、人にそんな感想を持たれたら恥だ、気をつけようと思ったのだといいます。
病気になって不自由は否めないけれど、新しい発見をするために、30分以内で行けるカフェに散歩を兼ねて3件まわったという著者。できる範囲でチャレンジしていくこんな日々の積み重ねが、素敵な老い支度につながるのかもしれません。
タイトル: 玲子さんののんびり老い支度
著者:西村玲子
発行:主婦の友社
定価:1620円(税込)