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日本は投資後進国
日本人にとって、投資とは馴染みが薄く「怪しいもの」というイメージがあります。また『日本人の「金融リテラシー」、他の先進国と比べると……?(前回の記事)』からもわかる通り、日本で株式や投資信託などを購入したことがある人は、2~3割程度でとどまっています。
この投資に対するネガティブイメージを刷新するべく2014年1月に始まったNISAという制度ですが、日本人の投資イメージを変えるにいたらず、2009年〜2015年までの6年間で銀行預金の総額は589兆円から730兆円に増加したのに対し、銀行の窓口で売られる投資信託の残高は23兆円から22兆円と微減する始末です。
金融庁長官 森信親氏の憂い
なぜ、投資に対してのネガティブイメージが消えないのか、この疑問に対してある提言を行った人物がいます。金融庁長官の森信親氏は2017年4月に日本証券アナリスト協会にて「日本の資産運用業界への期待」と題して、スピーチを行いました。
この時、森長官は数字を交えて、諸外国との比較をしながら、日本の金融業界の歪な構造を糾弾しました。彼は「金融業界が顧客本位でなく、自分たちの利益を優先しているために、一般人が投資から足が遠のいている」。と述べたのです。
スピーチを聞いていた多くの金融業者は、自分たちが槍玉にあげられたことにショックを受けました。しかし、森氏の指摘したことは頓狂なことではなく、半ば公然と暗黙の了解として金融業界内ではまかりとおっている事実でした。
以下の図は、スピーチの中で森氏が出した米国と日本との家計における投資運用益の差です。
これほどの差が生じたのはなぜでしょうか?日本と米国の経済力の差でしょうか?
いいえ、正確にいうと、投資力の差なのです。金融庁の役割は、投資家保護が中核になります。米国であれば、こんなに運用益を出しているのに、日本人とここまでの差が生じてしまったのは、金融業界の構造的な欠陥に原因があると指摘しています。
個人投資家が投資で成功する方法は4つ
資産運用の世界を代表する思想家であるバートン・マルキール(代表作に「ウォール街のランダムウォーカー」)とチャールズ・エリス(代表作に「敗者のゲーム」)の2人が、その共著の中で個人が投資で成功するための秘訣として4つのポイントをあげています。
①ゆっくりとしかし確実にお金を貯める秘訣は再投資(複利)にあることを認識すること
②市場の値上がり、値下がりを気にかけう、一定額をこつこつと投資すること
③資産タイプの分散をできるだけ図ること
④市場全体に投資するコストの低い「インデックスファンド」を選ぶこと
この4つは、いまさら説明するまでもなく、特に金融業者の中では常識であるのにかかわらず、この4つの条件を満たす投資信託は全体のわずか1%ほどだったと森氏は指摘しました。(一方、アメリカでは、上述の4つの条件を満たす投資信託は残高上位10本のうち8本があてはまりました)
つまり、顧客軽視で、利益優先している結果、顧客本位の投資信託が日本には1%しかないと激しく糾弾したのでした。
顧客軽視の投資信託を変えるために「積み立てNISA」は誕生した
金融庁の森長官は、続けてあるエピソードを話しました。
「母親が亡くなり、遺品の整理をしていると、最近購入したと思われるお年寄りには不向きのハイリスクで複雑な投信が何本も出てきた」と苦情を職務上聞くことがよくあるそうです。そうした投信を売った営業員は、親のところに顔も出さない実の子供に代わって、なんべんも足を運んで、この投信を買ってもらったのかもしれません。しかし、このような営業姿勢で営業ノルマを達成して、潤うのは金融機関だけです。
森長官はこうも述べます。「手数料目当ての投信を組成して半ば詐欺的に売るよりも、本当に投資リターンを得て、顧客満足度を高めた方が長い目で見て金融業界にとってプラスに働くのではないでしょうか。投資に対するネガティブイメージは、金融業界自身が作り上げていて、日本人の投資意欲が高くないのは仕方がない面があります」。
しかし、これを変えていくために、冒頭の積立NISAを作ったから、今後の金融業界の皆さんの努力に期待すると述べてスピーチを締めました。
投資信託は本来バランスよく未来に投資するのに最適な商品
さきほど、述べたのに4つの条件を満たしながら、投資をするには、投資信託は最適な商品です。個人で、債券や外国株、などポートフォリオを組みながら投資をするには、労力と金融知識を高める必要があります。しかし、投資信託では、それらのポートフォリオを専門家が組成して、一般に売り出してくれています。問題は、その投資信託ファンドがどのような組成を組んでいるか、やはり一般の人には理解されづらいという点です。なので、言われるがままに投資信託を選んでしまうと、「再分配型」の「アクティブファンド」で商品に係る販売手数料、信託手数料もかかる商品(一般的に損をしやすいと言われる投資信託)を選んでしまうこともあります。
さて、今回はここまでです。
次回、「積立NISA」を利用するなら、必ず知っておきたい投資信託のあらましをわかりやすくご説明します。
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