同一労働同一賃金の原則が、これからは厳しく適用されると言われている。これまでは、高校生のアルバイトと大学生のアルバイトでは時給が違うとか、年功序列によって同じ仕事をしていても、給料が違うといったことは当たり前であった。さらに、勤めている企業によって、ほとんど同じ仕事をしていても、給与が大きく違うことも誰もが知っている事実である。このような場合についても、同一労働なら同一賃金という原則が適用されるのか、労働問題に力を入れている弁護士に聞いてみた。
【ある20代男性より質問】
大卒で企業に勤めて、5年ほどになります。仕事も随分慣れてきて、戦力として働いている自信があります。しかし、高齢者の社員で、自分よりも仕事ができないくせに、遥かに高い給与を貰っている人がいて、納得できません。この人は、他の部署で役に立たないということで、うちの部署に送られてきたので、仕事が本当にできませんが、給与は高いままです。
このたび法律で、同一労働同一賃金の原則がとられるということを聞きました。それなら、自分の給与も、この高齢者と同じになることを期待しても良いのでしょうか?
アメリカでの同一労働同一賃金
「同一労働同一賃金」という言葉だけ見ますと、確かに質問者様のように考えるのが当然と言えます。しかし、日本の労働法においては、そのように解釈している法律家・実務家は一人もいません。
アメリカのように、職種ごとに労働の対価がおおよそ決まっており、職種ごとの労働組合がある国の制度とは違うのです。アメリカでは、同じ仕事をしている人は、いつまで経っても同じ給与です。違う会社に行っても、大体同じような給与です。給与アップを狙うなら、自分でスキルアップして、違う職種に移動するなど考える必要があります。
日本は「同一会社同一賃金」
しかし日本では、そのような制度は取られてきませんでした。日本の制度を表現するとすれば、「同一会社同一賃金」です。給与は会社によって決まってくる一方、どのような職種でも、「同期」の給与は基本的に同じです。だから、会社は職種転換を社員に用意に命じることが出来ます。社員としても、経理にいても営業にいても、基本的に給与は変わらないので、職種転換に容易に応じることが出来るわけです。
同一労働同一賃金を振り返る…まずは男女の不公正の是正
日本の「同一労働同一賃金」は、「同一会社同一賃金」を当然の前提にしながら発展してきたと考えれば分かり易いでしょう。まず行われたのが、男女での賃金格差などの是正です。男性と女性で違う対応を許さないという中で、総合職と一般職という分け方をして、それぞれの職種の違いという形に持って行きました。
目下の問題は、雇用延長された定年者と非正規労働者の賃金
男女の次に問題となったのが、近時人数の増えてきた非正規労働者と、雇用延長によって生じた定年退所後の再雇用者の労働条件の問題です。これらの人達の雇用条件を、あまりに下げると問題なので、正規社員に近づけようという運動が、「同一労働同一賃金」という名目でなされているわけです。
従いまして、そもそも役に立たない高齢者が、しっかり働いている若者より高給を取っているといった問題は、そもそも問題として認識さえされていないのが現状と言えます。