定年退職後の健康保険、どうするのが正解?

2017年10月24日

定年退職前に多くの人が悩むのが、リタイア後の健康保険選びです。
そのまま同じ会社で継続雇用される場合や別の会社に再就職する場合は、その勤務先の健康保険に加入すれば大丈夫。でも、それ以外なら、いずれかを選んで手続きしなければなりません。
定年後の健康保険の選択肢としては、①国民健康保険の被保険者になる、②健康保険の任意継続被保険者になる、③家族の被扶養者になる、という3つの方法があります。
それぞれどれを選べば良いのかポイントを見てみましょう。

選択肢①「国民健康保険の被保険者になる」

国民健康保険は、自営業者などが加入している保険で、各自治体が運営するものです。
手続きは、退職日の翌日から14日以内に、国民健康保険課など自治体の担当窓口で行います。
保険料は、所得に応じて課税される「所得割」、保有不動産等の価値で計算する「資産割」、加入者人数に応じて計算する「均等割」、一世帯あたりで計算する「平等割」の合計額。これを自治体ごとの基準に基づき、前年(1月~12月)の所得をもとに計算します。
ちなみに、平成29年度国民健康保険の保険料の上限は89万円(医療分54万円、支援金分19万円、介護分16万円)と、月額約7.4万円にものぼります。
国民健康保険料の特徴は、定年前の給与が高い人は、1年目の保険料が高くなりがちな点。2年目以降、前年の収入に応じて変化しますので、収入が少なければ減っていきます。
また、健康保険と異なり、扶養家族がいればその人数に応じた保険料となります。つまり、世帯収入が高いほど、加入者数(とくに介護保険料がかかる40~64歳の人)が多いほど、その分保険料負担は重くなるというわけです。
なお、保険料は全国一律ではありません。厚生労働省によると、同じ県内でも1.3~2.9倍の格差が生じているところも。所得が同じでも「地方移住して、保険料が高くなった!」なんてこともあります。

選択肢②「健康保険の任意継続被保険者になる」

勤務していた会社の健康保険に引き続き加入する方法です。退職日の翌日から20日以内に手続きを行います。
退職後も2年間継続でき、扶養家族も含めて従来と同じ保障を受けられますが、在職中に会社と折半していた保険料は、全額自己負担しなければなりません。
とはいっても、平均給与などに基づいて上限が決められており、任意継続保険料の上限は標準報酬月額280,000円です。例えば、東京都の場合、介護保険料も含めた保険料は月額32,368円(※)を超えないということ。
なお、任意継続の保険料は、平成22年3月から、「各都道府県が決定した料率×退職時の標準報酬月額」という方法に変更されました。
ただし、任意継続は、加入後に保険料を滞納すると被保険者の資格を失ってしまうので、脱退する意思がないのなら、くれぐれもご注意を!
※出所:全国健康保険協会「平成29年9月分(10月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」より
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/h29/ippan9gatu/h290913tokyo.pdf

選択肢③「家族の被扶養者になる」

健康保険組合や協会けんぽに加入している配偶者や子どもなど、家族の健康保険の被扶養者になる方法です。手続きは、退職日の翌日から5日以内に、加入を希望する被保険者の勤務先で行います。
この選択肢の最大のメリットは、保険料負担がないこと。
ただし、誰でもOKというわけではなく、被扶養者の年収要件が設けられています。
その要件とは、年収が「60歳未満は130万円未満、60歳以上は180万円未満であること」「扶養される家族の年収の1/2であること」などです。
この収入には、雇用保険の失業給付や公的年金なども含まれるため、退職した年に扶養の条件を満たす人はなかなかいないのが現実です。
さらに、加入先によっては、被保険者との続柄や同居要件など、より厳しい加入条件を設定している健康保険組合等もあります。あらかじめ被扶養者の条件を確認しておくと良いですね。

番外編!?第4の選択肢「特例退職被保険者になる」

実は、これら3つの選択肢以外にもう一つ方法があり、これが「特例退職被保険者制度」を利用する選択肢です。
この制度は、老齢厚生年金の受給権者で健康保険組合に20年(40歳以降は10年)以上加入実績がある人が、在職中の健康保険に加入できるというもの。
任意継続が2年間しか加入できないのに対し、この制度は、後期高齢者医療制度に加入するまでの間(74歳まで)加入でき、現役時代と同様の保障が受けられます。
ただし、この制度は、厚生労働大臣の認可を受けた「特定健康保険組合」限定のもの。設けているのは、キャノン、パナソニック、キリンビール、テレビ朝日などの大手企業のみで、全国で60程度しか存在しません(厚生労働省、平成24年度末時点)。
保険料は本人の年収や扶養者の有無に関係なく、現役の被保険者の収入によって決まるしくみです。保険料アップの可能性もありますが、健康保険組合が独自に行うさまざまなサービスの恩恵を受けられるのですから、高齢になって医療費負担が重くなる世代にとって、非常に魅力的な選択肢と言えるでしょう。

結局どれを選ぶのが正解?

さて、それでは、3つの選択肢のうち、どれを選ぶのが正解なのでしょうか?(特例退職被保険者制度がある方はそちらを優先的に選ぶとして……)
いずれの場合も医療費の自己負担割合は3割ですので、ポイントはやはり「保険料」です。
となると、選択肢③「家族の被扶養者になる」が最有力候補となりますが、これは収入要件を満たせば、の話です。
現実的な方法としては、退職前に選択肢①「国民健康保険の被保険者になる」と選択肢②「健康保険の任意継続被保険者になる」の保険料を比較し、割安な方を選択します。
一般的には、定年退職後1年間は、国民健康保険に加入するよりも任意継続被保険者の方が保険料の負担が少ないケースがほとんどです。とくに、扶養家族などが多ければ、国民健康保険の保険料は高くなりがち。そして、収入が少なくなった時点で国民健康保険に切り替えるという人が多いようです。
ただし、国民健康保険には、災害・失業・低所得などによって、国民健康保険料の納付が困難な場合、申請により保険料を減額・減免できる制度が設けられています。これに適用されれば、国民健康保険料を安くすることも可能です。一方、任意継続には、このような制度はありません。
いずれにせよ、どれを選ぶのかベストかはケースバイケース。
各市区町村の担当窓口では、身分証明書と前年の源泉徴収票、もしくは市県民税・特別徴収税額の通知書を持っていけば、保険料を試算してくれます。退職前に、確認してみることをお勧めします。

この記事のライター

黒田尚子

ファイナンシャル・プランナー/消費生活専門相談員資格/乳がん体験者コーディネーター。1998年FPとして独立。2009年末に乳がん告知を受け、「がんとお金の本」(Bkc)を上梓。自らの体験から、がんなど病気に対するおカネ・ココロ・カラダの備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力している。著書に「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実」(セールス手帖社)など多数。黒田尚子FP事務所 https://www.naoko-kuroda.com/

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