実際の決算書を読もう「ペッパーフードサービス」

2020年1月5日

さて今回は少しネットで悪い意味で話題になってしまった企業を取り上げてみましょう。
12月10日、「ペッパーフードサービス(3053)」が運営する「いきなり!ステーキ」の店舗に社長直筆の「皆さん店舗に来てください!お願いします!」と言った内容の張り紙がなされたのです。
「いきなり!ステーキ」は本来高価であるステーキを、立ち食いにすることで来店客の回転率を高め安く提供するビジネスモデルがヒットし、2013年より順調店舗を増やしてきました。
そんな順調なハズの「いきなり!ステーキ」に何が起きたのか…今回はそれを考えるためにペッパーフードサービスの短信を見ていきたいと思います。
参照:ペッパーフードサービス「直近第3四半期の決算短信(11月14日)」

表紙から見える「厳しい現状」

まずは1ページ目です。
いきなり、この第三四半期の数字を見て、置かれている状況がかなり厳しいことが分かると思います。

売上は順調に増えているものの、営業利益がほぼゼロにまで減少、いわゆる「増収減益」です。このあたりは後の「経営成績に関する説明」のページにもありますように、規模拡大を目指し店舗をどんどん増やした結果、同じ「いきなり!ステーキ」のお店同士が客を取り合う状況になり売上が伸び悩んだということと考えられます。
売上が延びなくても、そこに配置している人の人件費や家賃、そして機材などのコストはかかりますので、このように営業利益が激減したと考えられるのです。
実際、業績予想も

と著しく下落しており、株価の下落にも歯止めがかからない状況です。

この「下り坂」は予想できたのか?決算書の「気になる点」

このような状況を見るとやはり気になるのは「このような状況になる前にこの銘柄を売り抜くことはできたのか」という点です。もちろんペッパーフードサービスの株価はもう2年くらい下落傾向にあるのですが、この9か月だけを見ても株価は半分まで下がり続けています。そのため9か月前の短信、つまり2018年12月末の通期の情報から気になる点をピックアップしてみましょう。
参照:ペッパーフードサービス「2018年12月期決算短信」

BS

まずは、BS(貸借対照表)です。
一目で気になるのが流動比率(流動資産/流動負債)です。こちら約78%である120%を大きく下回っており、資金繰りの厳しさを物語っています。もちろん外食産業である以上毎日キャッシュでの売上金があるので、この78%という数字を鵜呑みにするわけにはいきませんが、それでも資金繰りに余裕がないことは事実です。
次が有形固定資産の大幅な増加です。
これは店舗を増やしているためその建物や内装工事が増えているのだと思いますが、その増え方が尋常ではありません。去年の54億から一気に倍近くの94億まで増えているので、ここから派生する減価償却費がPLにおいて営業利益を長きに渡り苦しめる絵が予想されます。
最後の気になるのが自己資本比率(自己資本/総資産)です。こちら13.6%と非常に低い数値になっています。急成長する会社はこの自己資本比率が低くなりがち(フルローンの一棟建不動産投資する人とかがそうですね)なのですが、気になるのは去年の同数値が26.7%だったのに対してたった1年で半分以上低下している点です。
上記流動比率でも分かるように資金繰りが苦しくなった部分を借金で賄っている、そして自己資本を厚くする利益が減少しているなどの原因が推測されます。

PL

次にPL(損益計算書)です。
売上は75.3%も増加しているのですが、それと同じように経費も大きく増加しています。この経費を順を追って見ていきましょう。
まず売上に対する売上原価…つまり簡単に言うと「いきなり!ステーキ」の肉の仕入れ値…つまり売上原価率は約57%となります。「原価3割」を言われる外食産業の中では比較的高いほうで、会社が言う「良い肉を安く提供」を実際に体現していると言えます。ただこの売上原価は当然ですが基本的に売上の増加と同じ比率でしか増えないので大きな問題にはなりません。仕入れないと売ることはできないので当たり前ですね。
問題は販管費です。
こちらも売上の増加に応じて約7割増加しています。販管費は上記売上原価と異なり家賃や人件費などの固定費がほとんどなので売上が7割増えるのであれば、それよりも小さな比率でしか増えない性質のものです。もちろん店舗が増えて店舗の家賃やお給料が増えたとしても、それを管理する本社の多くのスタッフや肉を一括仕入れするスタッフの数は変わらないハズだからです。
にも拘わらずこの年のPLを見ると、販管費が売上と同じ比率の7割増加しているという点…一体裏で何が起きているのでしょうか?

これは「売上の増加を見込んで店舗(人件費、減価償却費、家賃)を増やしたが、それに見合うほどの売上の増加がなかった」ということを意味しているのです。
一見「売上が75%増!」と見ると、業績絶好調のように見えますが、この手の外食産業において売上「だけ」を増やすのであれば誰でも簡単です。借金して店舗を増やせば必ずお客さんは多少は来るので売上「だけ」は増えるのです。
ただビジネスである以上、その売上の増加に伴って増やす必要がある人件費・減価償却費・家賃を超えて売上総利益が稼げたかどうか…という点で見ると、この年のPLは大惨敗であることが読み取れてしまうのです。売上が75%増えているのであれば常識で考えて営業利益は75%以上、もっと言うと倍の150%以上は増えていないとおかしいのです。
実際PLのこの後も、特別損失に
・減損損失
・事業構造改善引当金繰入額
というものが出てきます。
これは言い換えると「リストラ費用」です。会社も今事業に不健全な部分があることは十分認識していて「膿を出す」努力をしているのです。
しかし最新の第3四半期の時点での最新の売上予想は66億であり去年とほぼ横ばい。店舗を大きく増やしているのにこの状況です。一方店舗を増やしているのですから、人件費・減価償却費・家賃は容赦なく必要となります。今期のかなり苦しい決算予想(営業赤字)も納得です。

キャッシュ・フロー

最後にキャッシュ・フローです。
BS、PLに比べてキャッシュ・フローでは特に小さな項目では特筆するべき項目はありません。ただ気になるのが2年連続、営業キャッシュ・フローの範囲内で投資キャッシュ・フロー、財務キャッシュ・フローが賄えていない点です。

キャッシュの残高は増えているものの、これは借金によるものです。
当然新規事業を始めたり、店舗数を増やす時は巨額の投資キャッシュが必要なので投資キャッシュ・フローが大きなマイナスになるのは仕方がないのですが、去年から現在に至るまでPLにその良い効果が全く出ていないのが非常に気になるところです。

まとめ「既存顧客の取り合い」という問題をどう見るか

こうなると今後この「ペッパーフードサービス」の株価が戻るのか?という点が気になるのですが、私は短期間では厳しいと思っています。理由はその業績低迷の原因です。
店舗数拡大(固定資産増加、人件費増加)
既存顧客の食い合い
売上増えず経費だけ増えて業績低迷
という流れである以上これを立て直すのには時間を要します。
それは業績を苦しめているのが減価償却費や家賃、そして人件費と言った固定費だからです。
店舗を閉鎖するにしても、もとの状態に戻す内装工事にお金がかかるでしょうし契約上保証金や敷金が返ってこない可能性もあります。そして何より一度増やしてしまった人件費をそぎ落とすにはかなりのコストと時間がかかります。
2020年の五輪に向けてインバウンドの外国人旅行者はどんどん増えて、このあたりの層を新規顧客として取り込むというのも良いでしょうが、旅行者頼りというのは一過性のもので本当の業績回復にはなりません。ペッパーフードサービスの苦境はもう少し続きそうですね。
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この記事のライター

野瀬大樹

公認会計士・税理士。大手監査法人にて会計監査 、株式公開支援、財務調査、内部統制構築業務にかかわる。会計のプロとしての視点から家計のリストラに着手し、支出を1年で50%減らす。さらに自身の労働時間を年間1000時間減らす中で、所得の増加にも成功している。公認会計士協会主催の講習の講師も務め、小中学生に会計とお金の話をわかりやすく伝える授業には定評がある。著書に「20代、お金と仕事について今こそ真剣に考えないとやばいですよ!」(クロスメディア・パブリッシング) 、「自分でできる 個人事業主のための青色申告と節税がわかる本」(ソーテック社)などがある。

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