2018年上半期の世界経済を揺るがしているニュースとして、米・トランプ大統領の「貿易関税」発言が挙げられます。
そこで話題に上がっているワードとして「貿易摩擦」があります。今回は貿易摩擦について知識がない方にも分かりやすく解説し、今後の世界経済についての見通しを解説して行きます。
貿易摩擦とは何?
「貿易摩擦」とは、輸出と輸入のバランスが取れていない状態から起きる問題のことです。特に特定の商品で強みを持った国との貿易において輸入超過になり、国内における同様の商品の優位性が下がり減産や失業に繋がることから起きる不満が、関税強化等に繋がることが多く、今回のトランプ政権による中国への関税強化はまさしくこの点に当たります。
貿易摩擦が起きる一番の要因は「貿易赤字の拡大」です。トランプ政権下のアメリカは「Make America great again」を掲げ、再び強いアメリカ再構築するべく、「保守的・内需重視」に基づいた政権運営がなされており、時には他国排除のような動きも見せています。
貿易摩擦についてはこれまでも歴史的に度々起こっておりますが、基本的に「アメリカ対他国」と言った構図です。日本においては高度経済成長期の1980年代に米国との間で貿易摩擦が起き、日本政府に対して家電業界や自動車業界への輸出圧力や、オレンジや牛肉等の輸入拡大を求めた歴史があります。
今回の貿易摩擦については「アメリカ対中国」の構図で、ここ20年で急成長を遂げてきた中国に対するアメリカの不満を「関税強化」という形で貿易交渉をしようとトランプ政権はしています。
2018年の貿易摩擦の概要とは?
2018年3月にトランプ大統領の発言から「米通商拡大法232条」の国防条項を持ち出し①鉄鋼に25%、アルミに10%に関税、②除外はメキシコとカナダのみ、という条件で貿易関税をかけて来ました。
アメリカ保護主義を進めているトランプ大統領にとっては、海外からの安い鉄鋼やアルミが国内産業に悪影響を与えているという考えから行動に至っています。
この貿易摩擦は主に「中国」に対するものであり、即座に中国も貿易関税策を持ち出し両者にらみ合いの状態が続いています。中国はアメリカからの「果物や豚肉等」に対して関税策を打っています。
貿易摩擦に対して日本への影響は?
今回のアメリカ対中国との貿易摩擦の中に日本も含まれているわけですが、日本においてはさほど大きな影響を与えないと考えられます。その理由は2点です。
まずは「鉄鋼輸出が少ない」点です。日本からの対米鉄鋼輸出は年間200万トンであり、これは日本の年間生産量の2%ほどの規模です。中国や韓国、東南アジア中心に鉄鋼輸出が行われているため、主力どころから外れる日本においては蚊帳の外となっています。
ただし、東南アジア等からの安い鉄鋼が、米国関税の影響で日本国内に輸入されてくる可能性もあり、その場合には価格下落を招いてしまうリスクはあります。
もう1点は「日本企業の米国内生産が増えている」点です。トヨタ自動車を含め、日本企業は早くからアメリカ国内に工場を設置し、現地人の採用と現地生産に努めて来ました。特にトヨタ自動車はトランプ政権樹立後、現地人の採用と工場拡大を明言しています。
現地で生産する分には特段関税はかかりませんので、この手の心配は無用です。ただしこれらの企業も素材の調達が必要であるため、関税強化によるコスト増のリスクはあります。
貿易摩擦の今後の行方は?
トランプ大統領の一声で大きな問題へと発展した貿易摩擦の話ですが、実際は長くても2018年内には解消してくることが想定されます。その理由は2点あります。
1点目は「中間選挙をにらんだ政治的行動である」点です。2018年はアメリカで中間選挙が行われます。ここで就任2年目となったトランプ大統領に対する評価が問われることになります。就任以降目立った成果を残せていないトランプ大統領が貿易政策で結果を残したいというところから今回の行動に至っているのではないかと想定されます。
トランプ大統領の本来の目的は、2025年に製造国トップを目指している中国と交渉し、一定の成果を出すことであり、早い段階で両者妥結することが想定できます。従って長く続く問題ではないでしょう。
2点目は「米国議会の反発がある」点です。日替わりで発言が変わってしまうトランプ大統領ですが、今回の貿易摩擦の問題で議会からも不満が噴出しています。実際に共和党からも批判が出ているほどです。
批判の理由は貿易摩擦の対処のために関税をかけても、逆に製造業の製造コストが増えてしまい、業績悪化につながってしまうリスクが潜んでいるためです。
議会の意見や多面的な視点を持ってすれば早期妥結が予想されており、現状意地を張っているトランプ大統領が周囲の意見を聞き入れるような状況になれば収束に向かっていくことが想定されます。
以上の2点から、貿易摩擦については話し合いの末に早期妥結が予想され、堅調な世界経済を背景に引き続き成長して行くでしょう。