今だからこそ見直したほうがいいこと、逆に新しく始めたほうがいいこと。それぞれの年代で今までのあり方を変えていく状況は、人生において何かと出てくるものです。50代は、これからに向けて生活をアップデートする、いいタイミングだといえるでしょう。ナチュラルな生き方について長く読者に支持されているエッセイスト・岸本葉子著『50代からしたくなるコト、なくていいモノ 』 より、50代が知っておくといい考え方をご紹介します。
クローゼットを第三者に見てもらってマンネリを打破
「大人になると着るもの、難しいですよね」同世代の女性とそう話していた。ふだんの服は、それほど大失敗はしない。似たような傾向の服を着るようになっている。問題はそこそこ「きちんと感」を出したいとき。彼女も働く女性で、ふだんは動きやすさが第一だが、職場で来客を迎えたり、あんまりラフなかっこうだと失礼に当たりそうな場に行ったりすることが、年齢的にままある。そのときに、何を着るか。<14ページより引用>
著者は50代後半。きちんとした服の着方について、出版社勤務の友人と交わした世間話から、新しい本の企画を考えついたといいます。その企画会議で、自身のクローゼットをスタッフに全公開して、すべての洋服を画像に収めたのだとか。それをすることで露呈した問題とは、「同じような服ばっかり」であるということ。「これは着やすい、似合う気がする」と思ったら、同じブランド、その中でも同じ形をリピートしてしまうようです。
さらに、著者のクローゼットの特徴は、色違い買いをしていること。グレーを買ったら、次はネイビー。まったく同じ形でなくても、ほぼほぼ同じものが多いのだといいます。自分としては微妙な違いを楽しんでいるつもりでも、他人にはそれが分からないということもあります。「また同じ服を着ている」と見られて、費用対効果としては微妙。その撮影に同行したスタイリストのアドバイスとしては、「たとえばこれを二枚買うお金で、別のものを買えばおしゃれにもっと変化がつくのにとは思う」。
このように、ファッションについて時々、第三者の目で見てもらうということには、新たな気づきがあるのだと著者はいいます。もともとは、「きちんと感」を出すためにはどうしたらよいのかという悩みに対応する企画だったけれど、そもそもの問題点は別にあることに気づきます。着ていて安心な、なじみのパターンから抜け出せなくなっている現状。人の意見を聞きながら、陥ったマンネリを脱していくということが、50代からのファッションのコツだといえそうです。
年齢にあわせて自分らしい暮らし方をする
郵便受けにチラシが二枚入っていた。配布員が投函していったものらしい。重ねて押し込まれてあるのを引きはがしてみれば、この二枚、広告の方向性が正反対なのだった。ひとつは老人ホームの案内で、もうひとつは「老人ホームを考える前に」とある。住み慣れた自宅でいつまでも安心して暮らすために、困ったことができたら二十四時間頼めるサービスらしい。「時代だなあ」とつぶやく。すすめている内容は逆だが二枚はともに、高齢者の独居あるいは高齢者のみの世帯が多いことの表れだ。<193ページより引用>
社会の高齢化が進みつつあった十年ほど前にも、自宅での暮らしサポートにまつわるチラシを目にした著者。そのときには、娘目線での感想を抱いたものだといいます。親の介護を終えた現在は、完全に高齢者の立場でチラシを見て、書かれていた事例が五十代の著者には、すでに「あるある」だったのだとか。
テレビが映らなくなった理由が分からない、タンスの裏を掃除したいけれど重くて動かせない……。単純にホームへの入居という選択肢だけではなく、困ったことがあったら二十四時間頼めるサービスという選択肢があるということは、心強いといえるでしょう。
著者がマンションを買ったのは、三十代半ばのこと。これからどういう生活の変化が訪れたとしても、結局リスクはあるものだけど、ローンには終わりがある。そう考えて、当時購入を決意したのだとか。その結果、借り物ではない自分の家であるという意識から「ていねいな暮らし」に自然とシフトしていったといいます。家がいちばん落ち着ける場所になるから、掃除もする。家に早く帰ろうとするから、外食が減り、結果として節約になる。
一般論として、賃貸を続けた場合と、買った場合の生涯層収支はどうなのかという考え方もあるものです。しかし、住まいが及ぼす精神面でのプラスというものは、数値ではかりきれないと著者はいいます。年齢にあわせて暮らし方を見直しながら、自分らしく生きるあり方を大切にしたいものです。
ふつうの日々を長く続けるための見直し
四十歳のときに虫垂がんを患った著者は、ふとしたときに、現在の年齢を迎えられたことに感嘆を覚えるといいます。病気が治癒してからは、長期スパンのことはあまり考えずに目先のことに集中しようと心がけてきたのだとか。早期発見の難しいがんを患って助かった命だから、早期発見しやすいがんで命を落とさないように、日々注意しているのだといいます。ふつうの日々をできるだけ長く続けていけるように、年齢にあわせて自分らしい日々の過ごし方を、常にアップデートしていきたいものですね。
タイトル:50代からしたくなるコト、なくていいモノ
著者:岸本葉子
発行:中央公論新社
定価:1,620円(税込)
出典:Amazon『50代からしたくなるコト、なくていいモノ』
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