前回は、公的年金の老齢基礎年金、老齢厚生年金は、基本的に国民年金保険料を10年以上支払わないと受け取れない旨、ご説明致しました。今回は、保険料を払った期間を更に長くしていなければ受け取れないものについてご説明致します。
厚生年金はサラリーマンの方などが加入するものですので、厚生年金の被保険者に生計を維持される配偶者や子がいる場合、老齢厚生年金に「加給年金」というものが加算されます。
その加給年金額は、
配偶者:224,500円
1人目・2人目の子:各224,500円
3人目以降の子:各74,800円
となっています。
配偶者に対する加算は、配偶者の年齢が65歳未満の場合に限られます。また、老齢厚生年金を受給している方の生年月日に応じて、更に加算される「特別加算」というものがあります(ここでは、配偶者の生年月日ではないことに注意が必要です)。その特別加算は33,200円~165,600円であり、すなわち、最大で配偶者に対する加給年金額は224,500+165,600=390,100円となるわけです。
また、子に対する加算は、18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子がいる場合に限られます。
さて、この加給年金ですが、老齢厚生年金を受け取れる人で配偶者や子がいる人全員に加算されるわけではなく、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上必要です。
ですので、厚生年金保険料を払ってきた期間が20年未満、例え19年11ヵ月であっても、加給年金は加算されないわけです。たったの1ヵ月厚生年金に加入していないだけで、加給年金を加算されないのは痛いですよね。ですので、サラリーマンの人が独立して個人事業主になる場合などで、もしサラリーマンであった期間が20年に近い場合は、とりあえず20年勤めてから独立された方が良いわけです。20年になるまで払い続けた厚生年金保険料と、将来加算されるであろう加給年金の受取総額を比較すれば、恐らく後者の方が多くなると思います。
さて、配偶者に対する加給年金ですが、配偶者が65歳未満でなければ加算されませんので、配偶者が65歳に到達すると、この加給年金は支払われなくなってしまいます。そうなると、受け取れる年金額が減少してしまうと心配されると思います。
では、なにゆえ配偶者が65歳に到達すると配偶者に対する加給年金が加算されないかというと、それは配偶者自身が老齢基礎年金を受け取れるためです。専業主婦の方などは国民年金の第3号被保険者であり、その配偶者である第2号被保険者の方が第3号被保険者の保険料相当分を含めた保険料を払っていることから、その期間が10年以上あれば、原則老齢基礎年金を受け取れるわけです。
ただ、昭和41年4月1日以前生まれの方には「振替加算」というものが、老齢基礎年金に加算されます。簡単に言えば、老齢厚生年金に加算されていた加給年金が、配偶者の老齢基礎年金に「振替加算」として加算されるわけです。
なお、この振替加算の額は第3号被保険者の生年月日に応じて決まっており、若ければ若いほど低くなります。その理由としては、若い人ほど、昭和61年4月以降の現在の国民年金に加入している期間が長く、自身で受け取れる老齢基礎年金の額が多くなるためです。それ以前は、専業主婦の方は国民年金へ強制加入でなく任意加入であったという経緯があるためです。
このように加給年金や振替加算を受け取るためには厚生年金保険の加入期間20年以上が必要ですので、サラリーマンの方で独立を検討されている場合は、「20年」という期間を意識しておいた方が良いですね。
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「20年以上」で受け取れる加給年金と振替加算
2019年5月11日
この記事のライター
添田享
日本アクチュアリー会正会員、日本証券アナリスト協会検定会員。1級DCプランナー。アクチュアリー・ゼミナール講師。大学、大学院で数学を専攻し、大学院修了後、アクチュアリー候補生として信託銀行に入行。その後、証券会社、生命保険会社などで一貫してアクチュアリー業務に従事。
アクチュアリーの中でも、生保アクチュアリー、年金アクチュアリー双方で業務経験が豊富である数少ないアクチュアリー。現在は、アクチュアリーの業務経験を活かして、アクチュアリー試験などの金融関連資格の講師、数学の講師など幅広い分野で活躍。