多くの医療保険は主契約に、各種の特約をつけることで構成されています。特約を付けることで気になる部分の保障を手厚くできるメリットがありますが、特約が多くなれば当然保険料は上がってしまいます。あまり考えずに勧められるまま特約を付けているケースもあるでしょう。この機会に一度見直しをしてみませんか?
三大疾病特約
三大疾病とは、がん、急性心筋梗塞、脳卒中を指します。これらの病気は入院日数がかかることで医療費の負担が重くなると考えられているため、特約として付ける保険商品が数多くあります。日本人の死因の50.6%が三大疾病によるものとされる調査(2018年人口動態統計の概況|厚生労働省)もあるので、この特約は付けておくべきという考え方があります。しかし、入院日数(※)にフォーカスすると、がんは平均17.1日、心疾患(心筋梗塞など)は19.3日、脳血管疾患(脳卒中など)は78.2日となっており、脳血管疾患以外は20日を超えません。脳血管疾患についても、65歳以上が86.7日、75歳以上が98.9日と平均値を上げており、働き盛りの年齢では1ヵ月強ほどです。入院日数が長くなる年齢になってから備える方法もありますが、そうなると、保険料は、年齢が上がった分高くなってしまいます。
※厚生労働省2017年「患者調査の概況」より
入院が長引き、医療費が高額になったとしても、高額療養費制度があるため、平均的な年収の人であれば、自己負担額は8万円から9万円で済みます。ある程度の貯蓄があれば、特約を付ける必要はないと言えるでしょう。
また、三大疾病特約の給付金の支払い要件については注意が必要です。心筋梗塞と脳卒中は、初めて診断を受けた日から60日以上後遺症が続いた、あるいは働けない状態であるとの医師の診断がないと支払われない商品が多くあります。特約を付ける場合は、支払い要件をよく確認しておきましょう。
女性疾病特約
女性特有の病気に対して、保障が手厚くなる特約です。女性であれば、保険料をちょっと上乗せしてでも付けたくなってしまいますね。乳がん、子宮がん、乳腺症、分娩の合併症(帝王切開、流産、妊娠中毒症)など、女性特有の疾病は多くあります。しかし、これらの疾病は一般の医療保険でも保障の対象であり、他の疾病に比べて特別に医療費が高くなるわけでもありません。また、高額になれば、高額療養費制度も利用できます。そう考えると、この特約を付ける必然性はないと言えるでしょう。
但し、婦人科系の病気にかかりやすいと感じている人、特約分の保険料を払っても保障の上乗せが欲しい人は検討してみてもいいと思います。
先進医療特約
先進医療を受けた時に給付金が支払われる特約です。先進医療とは、厚生労働大臣の承認を受けた、高度な医療技術を指します。医療技術ごとに医療機関が定められており、その医療機関での治療のみが先進医療の対象となります。治療によっては数百万円と高額となるケースもありますが、先進医療の費用は全額自己負担です。また、保険外診療であるため、高額療養費制度も利用できません。そのため、先進医療を受けた場合の費用負担はかなり重くなるでしょう。しかし実際は、先進医療を受けるケースは極めて少ないと言えます。
厚生労働省の「先進医療の実績報告」によると2017年度に先進医療を受けた患者数は32,984人となっています。ちなみに、一般病院で1ヵ月間にがんで手術する人は59,670人(※)います。先進医療は1年間の統計と考えるといかに少ないかがわかります。
※「一般病院の検査等、手術等、放射線治療の実施状況」2017 年9月|厚生労働省より
先進医療を受けるケースは稀であっても、ゼロではありません。そして可能性は低くても、受けることになった場合の費用負担は膨大です。幸い先進医療特約は他の特約と比べて、保険料は安い場合が多いです。それだけ支払われる確率が低いということでしょう。中には月払い保険料にプラス数十円という場合もあります。少ない保険料で高額な医療費をヘッジできるなら、先進医療特約を付ける意義はあると思います。
健康祝い金特約
一定期間、給付金の受取りがなかった場合に祝い金がもらえる特約です。健康ボーナスとも言われます。この特約はそもそも、支払い保険料にボーナス分が上乗せされているだけなので、わざわざ付ける理由はありません。保険の予定利率が高かった頃であれば、利息が付くためお得感はありましたが、現在の超低金利の下では旨みは全くないでしょう。
通院特約
一般的な医療保険は入院と手術に対して保障されるものであり、通院では給付金はもらえません。しかし、近年の動向では入院日数は短期化しており、通院で治療を行う病院が増えています。こうした背景から、通院も保障される通院特約がある商品が多く登場しています。
しかし、こうした通院特約も、入院をした後の通院が保障の対象となっており、通常の通院(風邪で病院に行った)は対象となりません。
がんに罹患した場合、退院後も放射線治療などで通院するケースはよくあります。こうしたケースに対応するためには、一般の医療保険に通院特約を付ける他、がん保険に加入する方法もあります。がん保険には通院も保障されるものが多くあります。
通院特約を付けて、通院1日5,000円の給付金だった場合、保険請求のために必要な診断書が5,000円かかる場合もあります。通院が長くなりそうな病気やケガに見舞われる可能性と毎月の保険料を照らし合わせて、必要がどうかを検討してみましょう。
特約は主たる契約の保障が足りない、あるいはカバーできないと思った時に有効です。しかし、そうした場合も貯蓄があれば対応ができます。必要と感じる特約は無理に外す必要はありませんが、よくわからずに付けていた特約は一考してみてほしいと思います。
毎月の保険料は最低限にして、その分を貯金すれば、いざという時の備えとして使えます。保険の給付金をもらうには条件がありますが、貯蓄したお金の使い道には制限がありません。保険はそれでも対応できない事態の備えとして利用するとよいでしょう。
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