今までの常識が通用しない! 知っておきたい老齢給付金と繰下げの関係

2020年2月15日

2019年10月から年金生活者支援給付金制度がスタートしました。
年金生活者支援給付金には、老齢、障がい、遺族の3種類があり、条件を満たせば公的年金とは別にお金がもらえます。
ただし、老齢給付金をもらえる人が繰下げをするとちょっと困ったことが起こりそうなので、今回はそのお話をしようと思います。

老齢年金生活者支援給付金とは?

「皆様こんにちは。社会保険労務士の浜田です。そして、こちらがツッコミ担当のマネ田ラボ子さんです」
「どうも~ラボ子です。って、そういえばアンタ。最近仕事を通して気づいたことがあるそうじゃない」
「そうなんですよ! 老齢年金生活者支援給付金をもらえる人が繰下げをすると、ちょっと困ったことになりそうなんです」
「ちょっと落ち着きなさい。話が飛びすぎて理解できないわ。そもそも支援給付金って何のこと?」
「2019年10月に消費税が増税されましたよね。それに伴って、年金生活者支援給付金という制度が始まりました。簡単にいうと、上乗せでお金がもらえるようになった、ということです。もちろん全員が給付金をもらえるわけではなく、条件を満たす必要があります。ちなみに老齢給付金を受けられる条件は以下の通りです」
■老齢給付金を受けるための条件
・65歳以上で老齢基礎年金を受給していること
・請求する人の世帯全員の市町村民税が非課税であること
・本人の前年の年金収入額とその他の所得額の合計が87万9,300円以下(2019年度の額)であること
※上記すべての条件を満たすことが必要
「で? これと繰下げがどう関係しているのよ?」
「では、次から老齢給付金と繰下げの関係を、事例を出してお話ししましょう」

老齢給付金と繰下げの関係は?

「分かりやすくするために、事例でお話しますね。まずは事例の条件をざっくりと決めます」
■事例の条件
1955年4月2日生まれの女性
20歳から23歳まで厚生年金保険に加入
23歳で結婚し専業主婦に。
23歳から31歳までは専業主婦の年金(第3号被保険者制度)が始まる前だったので国民年金は未納
31歳から60歳まで国民年金の第3号被保険者
※夫は年上で厚生年金保険に20年以上加入したものとする
「あの~、全然分かりやすくないんですけど…」
「年金額は生年月日や加入月数などで色々と変わってしまいます。なので条件が複雑になってしまうのはご勘弁ください。さて、この条件でいくと65歳からの年金額は次の通りです。ちなみに金額は2019年度のものをベースに概算しています」
■65歳から受給した場合(※1)

※1年金以外に収入はないものとする。
※2老齢厚生年金は平均標準報酬月額を15万円として概算。
※3老齢給付金を受ける条件はすべて満たしているものとする。
「この女性は年金を増やしたいと思って老齢基礎、老齢厚生ともに繰下げ受給をしたとします。仮に66歳まで繰下げをしたらいくらになるのか? みてみましょう」
■66歳まで繰下げした場合

「ちょっとアンタっ! 繰下げしたのに振替加算は増えてないじゃない。計算間違えてるんじゃないの?」
興奮したラボ子さんは筆者のネクタイを引っ張りました。
「ぐえぇ。落ち着てください。計算間違いではありませんよ。振替加算は繰下げしても増額されないルールになっているんです」
「あら、そうなの? どうせそんなことだろとうと思ってたわ。じゃあ、67歳繰下げもよろしくね」
「はいはい。わかりましたよ。67歳まで老齢基礎、老齢厚生ともに繰下げした場合は次の通りです」
■67歳まで繰下げした場合

「ちょっと! 老齢給付金が少なくなっているじゃない。一体どういうこと?」
「そうなんです。そこが今回のポイントなんです!繰下げにより年金額が増えたので、老齢給付金が減額になってしまうんです。ちなみに今回の事例では68歳以降の繰下げをすると、収入オーバーで老齢給付金は0円になってしまいます」
「繰下げをしたのに何だか損した気分だわ」
「ここまでのお話で分かっていただきたいことは次の2つです」
・繰下げしても振替加算は増額しない
・繰下げにより年金が増額すると、老齢給付金は減額または不支給になってしまう可能性がある

逆転年齢が複雑化

「さて、ここからが本題です。繰下げでよく質問されるのは『何歳まで長生きすれば元が取れるのか?』というものです。この元が取れる年齢を『逆転年齢』と言ったりします。老齢給付金を含めた年金月額と逆転年齢は次のようになります」

「ちょっと、何よコレ? 68歳繰下げが一番長生きしないとダメってどういうこと?」
「給付金が出なくなってしまった分は、繰下げによる増額分で回収することになります。繰下げによる増額分が中途半端だと、回収までに時間がかかってしまうのでしょう」
「逆転年齢はみんなこんな感じなの?」
「大体こんな感じになりそうですが、結局は人それぞれです。『自分の場合はどうなのか?』ということを試算しなければなりません」
「じゃあ、年金事務所で相談すればOKなわけね」
「いいえ。残念ながら、今のところ年金事務所のシステムでは老齢給付金を含めない年金額のみで逆転年齢を試算するようになっているようです。ですから、老齢給付金を含めた逆転年齢は自分で試算してみるしかありません」
「自分で試算するって…。ものすごい大変そうじゃない。私にはできそうもないわ」
「そのような人は、繰下げをせずに65歳から受給するほうが良いかもしれませんね」

まとめ

老齢給付金をもらえる人が繰下げ受給をすると、逆転年齢が複雑化してしまいます。
今のところ、老齢給付金を含めた逆転年齢は自分で試算しなければなりません。パソコンの表計算ソフトを使うと、ちょっと面倒ですが試算することができます。逆転年齢を試算するのが面倒、よく分からない、という人は、通常通り65歳から受給するほうが良いかもしれません。
老後への漠然とした不安をなくしたい

この記事のライター

浜田裕也

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー。社会保険労務士会の業務委託で年金相談の実務にも携わるようになり、その相談件数は年間1,000件を超える。複雑な年金制度の解説や具体的な申請の仕方のアドバイスには定評がある。著書に「日本でいちばん簡単な年金の本」(洋泉社 第3章監修)、「転職したり、フリーランスだったり、離婚を経験した人は知らないと損する、年金の話」(SB新書 監修)がある。

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