老齢年金の繰下げ受給。社会保険料や税金はどのくらい増えてしまう?

2019年10月7日

近頃メディアで老齢年金の繰下げの話題が上るようになったためか、相談現場でも繰下げの質問や相談が増えています。
相談を受けていると「老齢年金がどれだけ増えるのか?」だけに注目し、「出ていくお金も増えてしまう」ということろところにまで気が回らない人が多いんだなぁ、という印象を持ちます。
ここでいう「出ていくお金」とは、介護保険料、後期高齢者医療保険料(国民健康保険料)、税金などを指します。では繰下げをするとどのくらい増えてしまうのか? 大まかな金額になりますが今回試算してみたいと思います。

「手取り金額」に注目すること

繰下げのお話しでよく出てくる年金額は「総支給金額」のことを言っていることが多いです。中には「総支給金額がまるまるもらえる」と勘違いされる人もいますが、それはちょっと注意です。
実際に振込まれる金額、いわゆる「手取り金額」は、総支給金額よりも少なくなってしまうのが一般的だからです。
なぜ少なくなってしまうのかというと、年金が振込まれる前に社会保険料や税金が天引きされてしまうためです。
ここでいう社会保険料とは、介護保険料や後期高齢者医療保険料(75歳前までは国民健康保険料)のことを指します。税金は所得税と住民税があります。
この社会保険料や税金は、もらえる老齢年金が増えれば増えるほど上がってしまいます。
繰下げを検討する場合、総支給金額ではなく「手取り金額」を把握することが大切になります。

手取り金額はどのくらいになるのか?

年金事務所やねんきんネットで試算した繰下げの金額は「総支給金額」であり、実際に振込まれる「手取り金額」ではありません。では、繰下げをした場合の手取り金額はいくらになるのか? 大まかな金額になりますが試算してみました。

※金額は月額
※65歳時の年金は月額15万5,000円とし、老齢基礎年金、老齢厚生年金ともに繰下げをしたものとする
※手取り率=(手取り額)÷(年金収入)×100%とする(小数点第2位以下切捨て)
介護保険料、後期高齢者医保険料(74歳までは国民健康保険料)、保険料の減額措置、住民税の計算方法などは自治体により異なります。ですので、上記の金額はあくまでも大まかな目安としてとらえてください。
繰下げをすることで老齢年金は大きく増やすことができますが、社会保険料や税金も増えていきます。
65歳受給の場合、総支給金額と手取り金額の差は7,800円。社会保険料などの負担率は約5%です。一方70歳繰下げの場合、総支給金額と手取り金額の差は2万5,120円。社会保険料などの負担率は11.5%で現役世代並みの負担率になることがわかります。
また、自治体によって基準は異なりますが、あまりにも収入が多くなると介護保険の負担割合が1割から2割または3割負担にアップしたり、後期高齢者医療の負担割合が1割から3割にアップしてしまうこともあります。
詳しくは自治体のサイトや担当窓口で相談するようにしましょう。
繰下げをすることで社会保険料や税金の負担は増えてしまいます。しかし、それでも65歳受給に比べて手取り金額は増えます。「繰下げするかしないか。結局どっちがいいの? 」ということで悩まれる人も多いですが、これについての明確な答えはありません。価値観や老後の生活設計によって、答えは人それぞれ異なるからです。手取り金額などを総合的に加味し、自分や配偶者の納得する方を選ぶようにしてくださいね。

社会保険料や税金はどうやって調べる?

先程の一覧表は大まかな試算なので、社会保険料などの金額がその通りになるわけではありません。では繰下げをした場合の社会保険料や税金はどのようにして調べればよいのでしょうか? 方法としては主に2つあります。
・自分で自治体のサイトを見ながら試算する
・自治体の担当窓口に相談に行き試算してもらう
ちなみに「年金事務所の窓口で社会保険料や税金も試算してくれればいっぺんに済むのに。それはできないの? 」と思った人もいるかもしれませんね。
しかしそれは難しいでしょう。
年金事務所は年金に関する相談をするところなので、原則それ以外の相談にはのってくれません。年金以外の事でクレームになっても責任が取れないからです。
なお、何もこれは年金事務所に限ったとこではありません。「それはうちの管轄外です。お答えできかねます」のように言ってくるのは、年金事務所以外の役所でも大体似たようなものです。「相談は1箇所で済ませたい」という気持ちもわかりますが、年金事務所では年金の試算をしてもらうことだけにとどめておきましょう。
自分で自治体のサイトを見ながら試算する場合「介護保険料 ●●区」のように検索するとよいでしょう。ただし、サイトには専門用語が多く出てきます。「課税年金収入」「合計所得金額」「賦課のもととなる所得金額」「総所得金額等」「所得割・均等割」などなど、馴染みのない言葉のオンパレードです。ですので、まずはそれらを理解するところから始めなけばなりません。かなり手間暇がかかってしまいますが、何とか試算することはできると思います。
市区町村役場で試算してもらう場合、事前に電話で試算してもらえるかどうか確認を取るようにしましょう。その際、相談に必要な書類も確認してください。
市区町村役場も担当窓口が分かれているので、介護保険料なら介護保険課で、後期高齢者医療保険料なら高齢者医療係(名称は自治体によって異なる)でそれぞれ試算してもらうことになります。

まとめ

年金事務所やねんきんネットで試算した繰下げの金額は「総支給金額」になっています。
実際に振込まれる額、いわゆる「手取り金額」ではないので注意しましょう。
繰下げをすると、介護保険料や後期高齢者医療保険料、税金が増えてしまうケースが多いです。そのため、できる範囲で構いませんので手取り金額を試算するようにし、その金額を参考に生活設計を立ててみるようにしてください。

この記事のライター

浜田裕也

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー。社会保険労務士会の業務委託で年金相談の実務にも携わるようになり、その相談件数は年間1,000件を超える。複雑な年金制度の解説や具体的な申請の仕方のアドバイスには定評がある。著書に「日本でいちばん簡単な年金の本」(洋泉社 第3章監修)、「転職したり、フリーランスだったり、離婚を経験した人は知らないと損する、年金の話」(SB新書 監修)がある。

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